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2010年08月26日

真夏の2連戦パート2 ハンガリーGPはレッドブルのためにあった!?

ホッケンハイムからいったんレンタカー、オペル・メリバで月曜日にパリまで550kmを走って戻り、水曜日午後フライトでハンガリーのブタペストへ。2時間少々で到着、今度の足は初めてのチェコ製のシュコダ・ファビオという小型セダンだったがギア操作がとても滑らか。一昨日まで乗っていたオペルよりも好感が持てた。

ハンガリーGPはまるでレッドブル・ルノーのためにある第12戦となった。僕は主にセクター1と3を見に行ったが、軽快なコーナリングに無駄な滑りは全然なく、ニュートラルステアを常に維持できていた(乗りやすそうだなあ~と山本左近君と意見が一致)。路面状態が日ごとによくなっていくハンガロリンクで、彼らは正確に0.4秒ずつ短縮、FP1と2はS・ベッテル、3はM・ウェバーが交互にトップ。先週勝って乗り込んできたフェラーリ・F・アロンソは手も足も出せず、その速さに脱帽だった。

パドックではこのショッキングな速さに、今度は彼らのフロントウイングへの“クレーム発言”が流れ出した。コーナリング中に風圧によって低く垂れ下がり、路面との隙間が減って空力効果を高めている、という“指摘”だ。ウイング類には静止した状態での強度基準が定められていて、レッドブルはもちろんパスしている。しかし他チーム(特にマクラーレン)が騒ぎ出したのを受け、FIA側はフロントウイングの強度測定基準を新たに変更することを明らかにした。より丈夫なものにしなくてはいけなくなり、これはベルギーGPから採用されることになっている。

この騒動に関して、僕は昨年からレッドブルだけが高速コーナーでフロントウイングをぶるぶる振動させていて、取り付け部分に不具合でもあるのではと何度も思った。コースサイドで見ていると、しなるというか、垂れ下がるというか、フレキシブルというか、表現方法はいろいろあるが、僕はなにかそこに“シークレット”があるのではと、ずっと疑問を抱いていた。その件が最近になって表面化してきたのは、カメラにこの振動する瞬間の画像が載ったからなのだが、実はもっと以前からいわゆる「フレキシブル・ウイング」を彼らは試し、その効果を確認テストしていたと僕は推察している。めったにコースに出ていかない人々たちには、なかなか気付かれないことではあるが--。

レースはウェバーが逆転勝利、これでシリーズの首位に立った。この4勝目は一味違う内容で、ピットインを先送りしながらオプションタイヤでリードタイムを稼ぐ力走に、彼の気迫が見て取れた。タイトル争いに賭ける意欲がむき出しだった。
 一方、今季7回目のPPを獲得したベッテルは“勝てるレース”をまた落とした。ウェバーとは対象的だ。敗因はセーフティーカ―退去時に車間距離を開けすぎ、隊列を乱したためにドライブスルーのペナルティーを喫したからだ。こういう負け方は、あとまで悔いが残るからよくないことだ。以前にも指摘したがベッテルの天敵はSC、これが現れると“天才”は自分のリズムを崩してしまい、ミスが多くなる。今回はルール上の問題だが、彼は「なぜ自分がペナルティーなんだ!?」と感情的にもなっていた。これでは、ライバルたちに弱点を見せることになる。終盤戦、SCがどれだけ出るか、その時ベッテルがどう対処できるかに彼のチャンピオンシップがかかっていると言ってもいいだろう。

もう一つ、M・シューマッハの幅寄せ事件について。断然速い後方R・バリチェロをブロックしようとする彼がピットストレートで演じたあのプレーは、最近のF1基準からすれば「相当厳しい」と言わざるを得ない。しかし15年前、90年代にはああいうプレーはよくあったこと。相手のバリチェロはそんな時代に生きてきたひとりであり、抜くか抜かせないか、食うか食われるか、シビアな時代を二人は体験している。バリチェロが昔チームメイトだったからああいう行動をとったというより、お互いベテランであるから咄嗟に昔のように“ワンポジション“へのこだわりを見せたのだろう。シューマッハ基準と今のF1基準の相違が“事件”へと発展した。

あとでG・ベルガ―も僕の感想と似た趣旨の発言をしている。昔はセナ、ピケ、マンセル、ベルガ―だってシビアなブロックを演じ、シューマッハもそうだった。ただし、現代F1基準があれを“次戦10グリッドダウン・ペナルティー”相当と認定、審査委員会が断罪したからにはシューマッハは従うべきであり、また今後、彼らは誰に対しても同様に対処すべきだ。

ほかにもこのレースではペナルティーが多数科せられた。R・クビサへの“10秒ストップ”、ルノーとメルセデス・チームに“罰金5万ドル”、ピットレーンでの混乱責任を厳しく追及されたのだ。やや乱発ぎみだが今後への戒めと僕は理解する。

真夏の2連戦を終えてプレスルームを離れたのは深夜12時ごろ。ひんやりした冷気のなか、市内ホテルに帰りもう一仕事、ルームサービスがなく残業めしはカップ焼きそばと地元のワインを。物足りないが我慢がまん、明日月曜日にはパリ経由で機内1泊、火曜日には日本に着く……はずだったのが、パリで成田行きフライトが欠航となって12時間遅れの火曜日昼出発に。用意された空港内ホテルで着の身着のままで1泊、ゲートでばったり会った小林可夢偉君と一緒に水曜日早朝にやっと成田に着いた。ブダペストを出てから2泊3日、真夏2連戦の旅路はちょっと長かった。

2010年08月15日

真夏の2連戦パート1 第11戦ドイツGP「チームオーダー事件について」

49周目、6コーナー・ヘアピン立ち上がりで1位マッサがショーシフトアップして加速が鈍った瞬間、背後に居たアロンソが抜いていったプレーに対し、審査委員会はペナルティー対象として動いた。
F1競技規則39条レースの第1項には「レース結果に影響を及ぼすチームオーダーは禁止される」とだけ書かれてある。ここには具体的なチームオーダーの定義はなく、またどういった順位操作プレーが審議対象になるのかも言及はしていない。あくまで“レース結果に影響を及ぼす・・・”という、他のレギュレーションにくらべてやや曖昧でファジーな文言だ。
今回のケースはフェラーリ・チーム内の無線会話内容がオンエアされ、誰が聞いても分かる“状況証拠”が残り、事態は大問題に広がった。
競技中の選手と、采配する側(ベンチ、ピット)のやり取り、会話、私語なども含めて全てオープンにされるプロスポーツはあるだろうか?
たまたまこのドイツGPからチーム無線会話が“全面公開”とされた。野球、サッカー、バスケット、何でもいいが団体競技(チームスポーツ)では真剣なプレーの最中には人に聞かれたくない言葉や、汚いフレーズも飛び交っている。それは勝負がかかっていればこそである。がそれらをF1では全て公開することにした。僕個人的には覗き趣味というか、盗聴マニアっぽくて賛成しかねる(いままでのように一部公開はあっていいと思うが)。
そうするからにはトップチームだけでなく下位チームも誰も彼も均等に扱い、たとえばこのGPではどこのチームとドライバー何人をピックアップするとか、それで十分このスポーツのリアリティーを見る側に伝えることは可能だろう。
公開される無線会話でこれから奇妙な暗号的フレーズ、あるいは英語ではない言葉を使う手段がとられるに違いない(もうすでにそうしているチームも多い)。

翻って“レース結果に影響を及ぼす”行為は、いくらでも拡大解釈できる。スタート直後からの同チーム2台間の追い越しプレーも、見方しだいでどれも“レース結果に影響を及ぼした行為”にとれる。いまのは故意に抜かせた、いや実力で抜いたのだと、奇妙な言い争いにもなりかねない・・・。
39条1項にかかわるペナルティーを回避するのも簡単なことだ。ピットインで故意にタイムロスさせるとか、コース上でわざとオフラインに入ってハーフスピンするとか、いくらでも手口は考えられる。――しかしうがった見方でこうしたことばかりを気にしてレースを見ていたら、モータースポーツそのもののリアリティーは吹き飛ぶ。それこそ茶番だ。
自分は現行の「チームオーダー禁止ルール」そのものに無理があると考える。チーム内で選手権下位の者がたまたま前に出ても、後ろに選手権上位の者が迫っていて、しかも明らかに速いのであれば、順位を明け渡すのはまっとうなチームプレーだ。そのドライバーのフェアプレーになろう。だがどうしてもそれを拒み、エゴを貫きたいのならそうすればいいことだ。そうした者はいずれ孤立し、去っていくレース人生で終わった例が多い。シューマッハに譲り、ライコネネンに譲られた経験があるマッサは、現役ドライバーの中で最もよく“チームオーダー”の内情を知っている男だ。あそこで潔く譲っていなかったら、マッサは2位どころかアロンソ、ベッテルの攻撃に遭い無理してスピンして終わっていただろう。
つまりチームオーダーによってマッサのプライドも守られ、フェラーリは通算81回目1-2フィニッシュを達成し、チャンピオンシップ終盤につないでいくことができたのだ。
「君はよくやったぞ!」
担当エンジニアの一言にはいろいろな意味があった――。

大盛況! 第11回「トークイベント」参加お礼

8月8日(日)の第11回『今宮純クロストーク・ミーティング』はお陰様で大盛況に終わりました。全国各地より参加いただいた方々、またご協力いただいた関係者の皆さまに心よりお礼申し上げます。
今回は帰国中だった小林可夢偉選手も、初めて“サプライズゲスト”として駆けつけてくれ、率直でリアルな「生トーク」で満員(200名)の会場を沸かせてくれました。その模様は後日、紹介させてもらいますが、ちょっとだけ触れると、実際にレーススタート直前フォーメーションラップでドライバーは何をし、何を考え、実行しているのか、手と足と指の操作を舞台上で分りやすく説明してくれました。オーバーテイクの技、ライバルとのせめぎ合い、実名をバンバン挙げて会場内には驚きの声も(!)。
「完全オフレコ」、「ここだけの話」など参加者の質問(リクエスト?)に、時には真剣に、そしてユーモアたっぷりにきり返す彼のセンスや人柄に、終了後は「カムイ選手との距離が縮まってすごく親近感が持てました!」と皆さん感激してくれた様子でした。
イベント終了後も、サイン、握手、記念撮影と約束時間をオーバーしてファンサービスしてくれた可夢偉選手。「イマミヤサン、あれでOKでしたか。僕も楽しかったです、また日本に居たら参加させてください」と笑顔で約束してくれたことをお伝えしておきます。

レギュラーゲストのBS浜島さんには、1997年から14シーズンにわたるF1活動について、その思い出などを語っていただきました。
「短くかくて長かったです……」と目を潤ませながら話すその一言一言に場内はシーンと……。また、雑誌等では書かれていない今年のタイヤとドライビングの関係、M・シューマッハやS・ベッテルとのエピソードも披露、この日は「ツインリンクもてぎ」でF・ニッポンがありましたが、朝のウォーミングアップに立会い、そのまま汗だくで会場に直行してくれたのです。舞台上で小林選手と後半戦ベルギーGP以降について“生ミーティング”が始まり、それは控え室でもずっと続いていました。

――あらためて3時間もの間お付き合いいただき、ありがとうございました。また次は、シーズンオフに第12回を開催する予定です。
F1LOVERS皆さんの力によってこの手作りイベントは継続されていきます。よろしくお願いします。

2010年07月04日

大混乱のヨーロッパGP、小林可夢偉7位入賞

タクシーで通えるのはここバレンシアのヨーロッパGPぐらいだ。市内北駅近くの常宿ホテルからは約10分、10ユーロ程度の料金で行ける。途中、渋滞もなく安くて確実。行き返りの車内でいろいろ考える時間が持てるのもいい。だから最初の年からレンタカーは使用していない。
バレンシアの街並みは小奇麗で、今年は6月下旬に日程が早まったから朝から灼熱の陽射しを浴びることもない。街のはずれのハーバーサイドにあるサーキットに着くと気持ちいい風が緩やかに吹いている。同じ地中海沿いのモナコGPよりもずっと庶民的な雰囲気で好感が持て(物価も安いし)、個人の観戦旅行ならここは絶対にお勧めのグランプリだ。

4年に一度のサッカーW杯の予選リーグが重なり、週末のF1パドック内ではモーターホームのTVにみんなが群がり大騒ぎ。チーム関係者には本物の“フットボールファン”が多く、ドライバーも各国スター選手たちと普段から交流があるので、チームの内情にとても詳しい。我々には番狂わせに見えたイタリア、フランスの敗退も彼らには予測されていた結果らしい。
「ニッポンはよくやったじゃないか」――。
敗退したフランスの連中に言われた。その心は「体も小さく、プレス能力もなく、ストライカーもいないのに、面白いゲームをした」という意味だ。こちらではサッカーとはあまり言わずフットボールと言っているが、ニッポンの<蹴球道>は新鮮に見えたらしい。確かに日本のゲームスタイルは大リーグのイチローのような“スモールベースボール(野球)”に似ていて、メジャーリーガーたちとは一味違う細やかな攻・守・走が面白い。僕はそこが共通しているように感じた。

予選18位、既成9チームのビリに下がった小林可夢偉は2戦連続ワーストポジション。予選はBSプライムタイヤ(硬い)で1分39秒669、オプション(柔らかい)で1分39秒343、あまりタイムアップできなかった。チームメートのP・デ・ラ・ロサは0.8秒アップしているのに、オプションのアタックに失敗した小林はQ1ノックアウトだった。
しかし内容をチェックしてみるとプライムではデ・ラ・ロサを上回り、マシンにはフィットしていた。決勝を前に小林はこのプライムをスタートで選択。同じプライムを選択したドライバーは7人いたが、M・シューマッハ以外は新興チームの連中だけに奇策といえば奇策だった。

このプライムでとにかく引っ張る――。小林はGP2時代もこうした他とは違う“ロング&ショート作戦”をしばしば決めている。過去2回のヨーロッパGPでセーフティーカーの出動はないが、この日は前座のGP2で大追突事故(M・ウェバーとH・コバライネンのケースに酷似)があったし、F1以外では頻繁に出ている。これもチームとともに想定し、そうなったときは先にピットインしてオプションにスイッチするのはデ・ラ・ロサで、小林は“ステイアウト”する別々の“連携作戦”を事前に組んだ。シンプルな作戦だ。

ただしこれを実行するためには、小林がプライムタイヤを消耗させず、ミスなく走るのが絶対条件。ビッグブレーキングが多いここではフロントがロックしやすく、表面にフラットスポットができやすい(1位S・ベッテルも実はこれで苦しんでいた)。また加速時にはホイールスピンしやすく、リアの磨耗を進行させやすい。小林はこの点も十分注意した。「タイヤマネージメント」という言葉を僕は昔から使っているが、具体的にはこういう細やかなドライビングスキルを意味している。

9周目に事故発生――。ウェバーがストレートエンド12コーナーで、コバライネンのマシンに追突したアクシデントについて一言で言うなら、あれはウェバーが“Fダクト”を片手操作中に追い越そうとして起きたように僕には見えた。 右左に進路を変えながらバトルするその一瞬に、ステアリング操作に集中できずダクト操作で忙しかったとしたら……、TV画面からはそう感じられた。
ともあれウェバーが大事に至らなかったのは、マシンが丈夫だったからではなく、上下左右に回転しながら偶然ああいう形で収まったからだ。付け加えるなら、レッドブルのチーフ・テクニカル・オフィサー、A・ニューウェイさんは、この“Fダクト使用片手運転”に危惧を抱いていた人物の一人だった。

もう一言言おう。この事故でセーフティーカーが出動、1コーナー手前で並走する2位L・ハミルトンは一度アクセルを緩めている。ここで彼はセーフティーカーの存在を見た(に違いない)。がその直後、なんとこの<安全確保車両>を抜いて行った。これを直後の3位F・アロンソははっきり目撃したが、減速して従いこれによってピットインタイミングで“大損”して順位を下げることになった。さらに、このハミルトン重大違反が審議対象になったのは10周以上後であり、ドライブスルー・ペナルティーが宣告されたのはさらに4周あとだった。遅すぎる(アロンソが感情的にFIA批判したのもよく分る……)。
問題点は二つ、なぜセーフティーカー・ドライバーは、すぐにレースディレクターに「いまカーナンバー2が追い越した」と報告しなかったのか。報告したとすれば、なぜジャッジを下すまであれほど時間がかかったのか。時間がかかればかかるほど、違反行為者は得をすることになる。
もうひとつは、93年からF1に採用された安全確保が目的のセーフティーカーを追い越すという重大な違反なのに、ドライブスルー・ペナルティーは軽すぎるのではないかという点だ。W杯サッカー大会でも審判の“誤審”が問題になりFIFAはさっそく検討を始めたそうだが、ルールを守った者と守らなかった者を公平に裁き、スポーツの信憑性(誰が見ても分りやすい競技性)を高める取り組みを、FIAはもっと徹底しなければならないと僕は思う。

長くなるがレース後、さらに9台がセーフティーカー・ラン中の基準タイム違反で、レースタイムに一律5秒加算のペナルティーが下った。試合終了約4時間後の午後7時30分になって、この裁定が正式発表されたが、違反者9人の過失は軽重それぞれなのに、全員に同じ“5秒加算”という判例も過去に例がない。このように混乱を極めた審判団の行動は今シーズンのワーストだった。おかげで日曜夜に閉店間際のレストランに駆け込むと、親父さんから「いったいどうしてアロンソはああなったんだ?」と詰問されるはめになった。分りにくいF1のイメージをJ・トッド会長には是非刷新していただきたいものだ。

話を小林に戻すと、1位ベッテル、2位ハミルトン、3位小林、4位J・バトンとなってからの中盤のペースは、マクラーレン・バトンに「抜く隙さえなかった」と言わしめたほどだ。ではなぜ予選18位のマシンがマクラーレンに対抗できるほど“速く”なったのか?
理由は四つ。1、ハミルトンが先行したことで前がクリアーになり、全く乱流を浴びずに理想的なエアロ状態が維持された。2、公道コースの路面グリップが強くなって予選以上にプライムタイヤでのバランスがよくなった。3、ザウバーは今回、燃料重量がレース中に軽くなっていく変化に影響されにくい細かいアップデートパーツを入れ、そのセットアップは予選よりもレース重視だった。4、序盤からタイヤを消耗させずに来た小林がリズムを完全につかみ、後ろのバトンをバックミラーで気にせず(プレッシャーを意識せず)少しずつ攻める「アブダビGP」パターンを思い出した。以上が挙げられる。

小林は53周目にピットイン、僕はこれを正しい判断だと思った。これより遅いと、オプションタイヤをウオームアップできないままチェッカーになる。彼は2周足らずでこのタイヤのグリップを引き出して56周目にアロンソを抜いた。際どいサイドバイサイドだったが相手のアロンソはフェアで、もし彼でなければ接触リタイアした可能性もあった。57周目のラストコーナーではS・ブエミのインを急襲、相手がここで来るとは思っていなかったのだろう、ブロックラインをとっていなかった隙を突くことができた。きれいな7位・6点ゴール、最終ラップの最終コーナーでオーバーテイクしながらフィニッシュするシーンはめったにないことだ。このように小林可夢偉11戦目のレースは、彼の力とチームのJ・キー技術監督、担当エンジニア、そしてメカニック(5秒5で焦らず正確にタイヤ交換)たちによる、表彰台にも等しい “金星”だったのである。

P.S. レース後、パドックでスパゲッティをばくばく食べる小林君と缶ビールで 一緒に“乾杯”。今日はビールだけどシャンパンは、もっと上位でフィニッシュした次の機会としよう。

≪お知らせ≫
すでにご案内のとおり今年も盛夏8月8日に、第11回クロストーク・イベントを、いつもの東京青山のホテルで開催します。F1はちょうど第12戦ハンガリーGPを終え“夏休み”期間に入りますが、ゲストの方々(複数を予定)とともにまた大いに語り合いましょう。中盤戦までの数々の出来事を“総括”しながら、日本GPを含めた後半7戦の展望やBSタイヤ・F1ラストシーズンのカウントダウンなど、今回もスペシャルでサプライジングな話題をたくさん用意しお待ちしています。
――エントリーはお早めに。シー・ユー・スーン、F1LOVERS

2010年06月27日

マクラーレンが2戦連続1-2フィニッシュ、反撃攻勢に転じたカナダGP。

レッドブルがまた拙いレースをやってしまったカナダGP。うまいレースをしたマクラーレンが2戦連続、今季3度目になる1-2フィニッシュ。レッドブル内部にはまだ“トルコ後遺症”がくすぶっている気配が感じられ、そこをマクラーレン勢とフェラーリ、F・アロンソに突かれた。

ここまでの8戦・全491周のラップリーダー記録は1位M・ウェバー210周、2位S・ベッテル117周、3位J・バトン73周、4位L・ハミルトン55周、5位アロンソ18周、6位N・ロズベルグ17周、7位S・ブエミ1周となっている。圧倒的な数字だ。レッドブルが実に327周も“支配”していて、現在ランキング首位のマクラーレンは3分の一程度の128周でしかない。これほど速い(速かった)レッドブルが3勝、193点の2位というのだから、4勝、215点の“名門チーム”がいかに“上手に”ゲームを戦ってきたか分かるだろう。

さて2年ぶりの開催となった31回目のカナダGP(モントリオール)に、初めて大西洋周りで行った。というのも僕は5月上旬に日本を出てから、第5戦スペイン~第6戦モナコ~第7戦トルコとずっとヨーロッパをベースに移動、このカナダGPもやはりパリから移動した。いままでは日本からシカゴかNY経由で乗り継ぎ、正味20時間弱ほどかかっていたフライトが7時間少々で済んだ。おかげで13時間の昼夜逆転時差にも悩まされず、機内ではエア・フランスの美味料理も楽しめた。ヨーロッパのF1関係者がカナダGPを好む理由がよく分かった。

疲労感もなくすぐそのまま空港からサーキットに直行、コースを韓国車KIAのリオというセダンで走った。「何も変わっていないな」。これが2年ぶりのジル・ビルヌーブ・サーキットの印象。コース幅は狭く、パドックも狭い。我々のプレス駐車場も狭く、車はボートコース脇の土手の草地に乗り上げて止める。プレスルームはボートコースの中の水上に“仮設小屋”を作ったもので、人が歩くたびに床が揺れる。アメリカやカナダには巨漢体型の男女が多いから、絶えず“余震”が続く。贅沢はいわないが30年前からほとんどアップデートがないサーキット施設はいまやここだけだ。幸い今年はコースの舗装が剥がれずGPウイークは無事進行できたが、進歩していたのはこれくらいだった(といっても剥がれないのが当たり前なのだが)。

それでもコースレイアウト自体は攻めがいがあり、オーバーテイクポイントもあって、ブレーキングテクニックが見どころになる。壁ぎりぎりでマシン・コントロールをする技術、勇気、集中力が必要とされる、モナコGPとはまた違った“ドライバーズサーキット”だ。今年ここを走った日本人は、たぶん僕と小林可夢偉君だけだろう(彼は戦うために、僕は伝えるために)。KIAでレーシングラインをゆっくり走りながら、シケインでは縁石にタイヤを引っ掛け、出口ではコンクリートウオールに接近し、わざとオフラインも通って視界などを確認。TV画面では伝わってこないリアルな感覚を自分の体に染み込ませるのが目的だ。

1周目、最終シケイン入り口でN・ヒュルケンベルグとM・シューマッハと競り合いながら、インサイドラインになった小林は縁石をまたいでしまい、コントロールできなくなって出口右側にクラッシュ。「ボンジュール・ケベック看板」に刺さった。9位争いの代償は高くついた。でも周りにカムイ・コバヤシは相手が新人であろうと、シューマッハだろうとファイトするドライバーだということをまた知らしめた。
「体は大丈夫? お尻とか腰にきたんじゃない」
レース後に話しかけた。セダンならなんともないがあの高い縁石をまたいでいった衝撃は、僕なりに想像できる。
「いやあ平気でしたよ。でも乗用車で乗り越えるとどんな感じなんです?」
逆に小林君に質問された。
「ウン、車は斜めに傾いて、前は見えなくなるね」
そう答えると、彼もよく見えなかったと小声で呟いた。
ワンプレーのミスから彼自身が何を感じ、何を学んでいけるか。新人10戦目、初カナダの痛い教訓を活かせればクラッシュの代償は取り戻せる。そんな願いを込めて夕方パドックで「次のバレンシアでがんばろう」と笑いながら別れた。

4位ベッテルと5位ウェバーには笑顔はなく、3位アロンソもそうだった。予選後ギアボックス交換トラブルによって2位から7位に降格したウェバー、また問題が発生した。彼らのタイヤチョイスは予選をミディアムで行き(スタートもこれになる)、やや消極的な作戦を取った。レースではタイヤマッチングに迷いがあり、第2スティントでウェバーにはミディアムを、ベッテルにはスーパーソフトを履かせた。これも上手ではない作戦だ。しかも、1位でハミルトンを11秒以上リードしていたウェバーの第3スティント・タイミングがずれ、結局5位に下がってしまった。さらにベッテルには中盤からギアシフトに異常事態が起こり、タイムペースが乱れた。こうした不具合が生じると、さすがのベッテルも参る。集中力が途切れがちでクラッシュの不安を抱かせたが、それはなんとか避けて4位に…。

一方アロンソは彼らしい巧妙なゲーム展開を見せ、マクラ―レン1-2を阻むチャンスを狙って追った。が、28周目ピットインラップでJ・トゥルーリに引っ掛かりタイムロス、4秒2の停止時間は素早かったのにハミルトンに前に出られてしまう。さらに56周目、6コーナーで今度はK・チャンドックにひっかかり、加速が鈍ったところをバトンに前に行かれてしまった。あれはマクラーレン・バトンが速かったというよりも、チャンドックがいたから一瞬アロンソが“失速”したせいだ。勝負師アロンソは表彰台で一応の笑顔を見せて悔しさをかみ殺していたが、マシンもチームもピットクルーたちも(自分も)ベストで戦いながら、二つの“不運”が重なって25点を取り損ねた結果に、内心は怒り狂っていたのである。

かくしてマクラーレンはまんまと1-2をいただき、ハミルトンはすっかり有頂天に。スピードボーイはいったん調子付くと勢いに乗って天まで昇るタイプ、バレンシアで“ハットトリック3連勝”をやってみせると宣言するほど強気だ。地道にマシン開発を続けながら、レースの流れを読み、全くトラブルフリーでハミルトンをのびのびと走らせる名門チームが、反撃攻勢に転じたカナダであった。

2010年06月07日

シーズン曲がり角、第7戦はとても気分の重いゲームだった。

レッドブルのM・ウェバーとS・ベッテル、マクラーレンのL・ハミルトンとJ・バトン。ドライバーズランキングで上位を占める4人が、新旧2強チーム対決という背景を背負って“ドッグファイト”を演じたトルコGP。このままいけば何かが起きる……、そんな胸騒ぎを覚えたレースは、今季初めてのことだった。

この4人、ドライバーとしてはかなりタイプが異なる。その点も興味深いが、今回はTV解説では言い尽くせなかった心理的なアングルから、あの<衝撃のアクシデント>を分析してみよう。

スペイン~モナコと2連勝でトルコGPに乗り込んだウェバーは、最近、速さに磨きがかかってきたとはいえ、勝ちパターンはたったひとつ“PP独走”しかなくて、競り合いに強いほうではない。実際、接戦に持ち込まれると急に接触率が高くなり、昨年までのアクシデント率は138戦で13.3%と中堅クラスにしては相当高い。

若いベッテルも爆発的なスピードを有する反面、アクシデント率は18.6%とウェバー以上の高さだ。リスキーなバトルに果敢に挑んでいくだけに、事故には絡みやすい。その点が新鋭期のA・セナを彷彿させる部分でもあるのだが(だからスリリングなのだが)。
 
一方、ハミルトンはイメージよりもアクシデント回数は少なく6%。サイドバイサイドの争いに強く、07年にはアメリカンGPでF・アロンソと紙一重の並走バトルを平然とやってのけた。接近戦で周囲を“見切る能力”は天性のもので、むしろ単独疾走中にミスを犯しやすいタイプだ。

この3人の後ろにつけていたバトンはデビュー時から無謀な攻撃を嫌い、行くときには行くが、それまではじっくりとチャンスを待つ優等生タイプ。少年時のカート時代から接触事故を避けるクリーンなレースを心がけてきた彼は、それ故、やや消極的なところがあると見られてきたが、昨年のタイトル獲得で自分のレーススタイルに自信を深めている。

競り合いに弱い者を、接触も厭わない若者が追い、バトルに強い者が見極め、チャンスをじっと狙う者が背後で待つ――。これで何かが起きないわけはない。
40周目、12コーナーに向かうストレートでベッテルは完全にウェバーをキャッチアップ。燃費的に余裕があり、パワーベストモードで追う彼はタイヤグリップもよく、明らかにコーナリング速度が高く、仕掛けずにこのまま従う理由はなかった。背後からは3位のハミルトンがせっつくように迫っている……。

問題なのは、なぜここでレッドブル・チームは的確な戦況把握をして、ウェバーに「ペースアップ」の指示を出さなかったのかということだ。ウェバーがもっとタイムアップしないとベッテルは前に詰まってしまい、直線MAXスピードに勝るマクラーレン・ハミルトンに攻略されるのは、時間の問題だった。さらに、その後ろに控えるバトンまで切り込んでくることが予想される状況で、チームとしての選択はたった一つしかないはずだった。

確かに「チームオーダー」は禁止されている。だがストラテジックな「チームコントロール」はできるし、しなければいけない。それなのにウェバーに的確な指示がなかったというのは、こうした究極の“接戦ケース”を彼らが想定していなかったということだろうか。こうした場面では、ドライバーと担当エンジニア、そして首脳陣らが総合的に情報を共有化し、最終的に誰が采配の指揮権(責任)を持つのか、そのマネージメントが問われる。それは技術監督A・ニューウェイの仕事ではないし、もちろんアドバイザー役のH・マルコでもないだろう。それなのに、レース後チーム内からさまざまなコメントが流出し、悪者探しのような“混乱”があったのは、結成まだ5年というレッドブル・レーシングの若さであり弱さといってもいいだろう。最速マシンは造れても、組織作りはまだまだマクラーランやフェラーリには及ばない。それが露呈された大きな“事件”だった。

話をレースに戻そう。接触に至る非はチームにあったといえるが、事故発生の瞬間映像を何度か検証すると、ウェバーがベッテルの動きに対し反応が遅れていることが分かる。ひょっとすると彼は一瞬、ベッテルの存在を見失っていたのかもしれない(と思われる)。あの場面、ベッテルが右に寄ったのは故意ではなく、オフラインなのでマシンが滑ったという解釈もできる。ウェバーは左に並ばれた時に予測反応としてそれをイメージし、自分も右に振って避けるラインを取り、12コーナーをアウトからレコードラインで進入していけば、イン側のベッテルは止まり切れず、彼の単独スピンで終わっていた可能性もある。

レース後の記者会見(TVインタビューの後なのでオンエアされず)で、ウェバーの表情はずっと青ざめていた。それを見て、300Km/hオーバーでチームメイトと当たったショックは、想像以上に衝撃的なものだったのだろうと、僕は感じた。
夕方、さんざん報道陣に追いかけられていた彼が、ポツンとひとりで佇んでいる場面に偶然遭遇した。相変わらず思い詰めた表情で、その姿がこのレースでの出来事をすべて語っているような気がした。

僕は話しかけることをやめ、軽く手を挙げて挨拶をした。ウェバーは気分が解放されたように少しだけの作り笑顔を返してきた。
トルコの教訓、イスタンブールの教えを彼らがこれからどう活かしていくのか。「ヒューマンスポーツF1」をアピールする、シーズン曲がり角の第7戦はとても重たいゲームだった。

P.S.
ここでお知らせです。第11回「クロストーク・イベント」は、盛夏8月東京のいつもの場所で開催予定で、只今準備を進めています。トルコGPではある女性ファンから「今度のイベントはいつですか?」と声をかけられ、こんなに遠くまで観戦に来ている彼女の熱意と併せてちょっと胸キュンとなりました。それにお応えする意味でも、今年も夏休み返上でやります! 開催日時は間もなくお知らせしますのでF1LOYERSの皆さん、夏の“バカンスプラン”のどこかに加えておいてください。内容は今回も盛りだくさん、4強チームの○と×、中間チームの争い、ザウバー小林の心境など、TVやプリントメディアでは表現できなかったことを、直接皆さんにお話しします。もちろん皆さんからのご意見、ご質問も大歓迎。幅広いファン層の方に支えられて11回目、ビギナーの方からベテラン世代までウェルカムです(!)。ご期待ください。

2010年05月28日

地中海2連戦を制したルノー・エンジンの強さとは!?

第5戦スペインGPの行われたバルセロナから、第6戦の地モナコまでは約670km、地中海沿いの高速道路をレンタカーのプジョー206+(ディーゼル)で移動。この2連戦、開催地はすぐ隣国でも日程は5月9日(日)にスペインGPの決勝、そして13(木)にはもうモナコGPのフリー走行開始と “中三日”の慌ただしさだ。僕はバルセロナを11日(火)に発ち、約7時間かけてモナコに入った。途中はフェラーリ・チームの“最終便トランスポーター”も一緒だったが、地中海沿いの高速道路からは海岸線が見えないのが残念だった。

マシンパーツが間に合わないとか、モーターホームがまだ組み立て中だとか、水曜日のモナコGPのパドックはてんてこ舞いの大騒ぎ、足の踏み場もない工事現場のようだ。それを横目にハーバーに立派なビル(?)を建て、チームオフィスとVIPエリアを完備させていたのがレッドブル・チーム。2階にはプールやバーもあって、このチームのホスピタリティーはNO.1。この点でもフェラーリやマクラーレン、メルセデスを抜き、名実ともにトップチームに踊り出た印象だ。わずか結成5年目のプライベートチームに、“タイトルスポンサー”がつく噂も出ている。それほど、いちドリンクメーカーの存在感は、F1界において急速に巨大化している。

モナコGPではルノー・エンジンが予選も決勝も1-2-3制覇、レッドブル・ルノー勢とルノーのR・クビサが圧倒した。過去には97年にウイリアムズ・ルノーとベネトン・ルノーの2チームがイギリスGPで1-2-3、ルクセンブルグGPで1-2-3-4を決めたことがあるが、その当時の活躍を思い出させるようなレースだった。

最近のモナコGPではメルセデス・エンジンが3連勝中で、この10年で6勝という強さで来ていた(フェラーリは01年以後未勝利でここでは弱い)。エンジン開発凍結ルールになってからメルセデス・エンジンが最強といわれているが、ルノー・エンジンを搭載したレッドブルが、今年はここまで6戦連続PP、決勝も6戦3勝という強さで、メルセデスの連勝をモナコでも止めた。この強さはまさに注目に値する。

2400ccV8エンジンのピークパワーはルノーの745馬力に対して、メルセデス760馬力、フェラーリ750馬力と両チームの方が優っていると推定されるが、ルノーは低中回転域での実戦パワーを感じさせ、また有効トルクもあって“ドライバビリティー”の点では完全に両チームより優っている。モナコのような公道コースでは、彼らのエンジンキャラクターの方がコースにフィットしているのは、実際にコースサイドで走りを観察しているとよく分かる。たとえば小さなコーナー出口からの加速力、マスネ高速コーナーでのアクセルワークなどドライバー・フレンドリーな特性が見て取れる。

さらにもうひとつ、好燃費性能もある。今年は無給油時代に戻り、モナコの260kmレースでは各チームとも平均値で1周あたり1.7kg、約135kgの燃料を積むことになる。その中でルノー・エンジンが、僕らの推察どおり約3%、ほかよりも燃費効率が上回っているとしたら……、当然、搭載燃料が軽くなり、ラップタイムに換算すると1周あたり約0.1秒以上の速さにつながっているはずだ。またレース・スタートが一段と重要になっている今季、ここまでの6戦を振り返っても、レッドブルとルノー(R・クビサ)が1コーナーまで抜かれたシーンはほとんど見たことがない。この発進加速性能でも好燃費ルノーは優っているし、チーム側さらにメリットを確実にすべく、“スタート・システム”の開発研究に精力を注いでいる。

マシン性能についてメディアではエアロパーツ、Fダクト、ストールウイングなどの改良を「アップデート」として取り上げることが多いが、実は開発凍結状態のエンジンでも内部の“合法的モディファイ”は認められており、アップデートは行われている。エンジン内部はカバーの中にあって、なかなか表から見る機会はないが2010年のF1エンジン<究極の燃費競争>で、いまルノーが他チームをリードしつつあることは間違いない。

2年ぶりに復活する第8戦カナダGPは、燃費が悪いコースとして有名だが、そこではレッドブルとルノー(クビサ)がどういうパフォーマンスを見せてくれるか、いまから大いに楽しみだ。

≪P.S. モナコGP夜話≫
土曜日の夜、仕事を終えてメインストレートを下見がてら走ったあと、ニース方向に向かっていたら路上検問にぶつかった。まだ食事もしていない9時半ごろ、我々が外国人だから止めるのかなと思ったら、なんと“飲酒運転”の検問だった。アルコール・チェックの器具を渡され、10秒間息を吐き出せという。ちょっと頭がくらくらするくらい目いっぱい吹いてやると、警官が「トレビアン!」と誉めてくれた。もちろんアルコール度は完全にゼロ。今度はこちらが「トレビアン!」だ。このあと、ホテルに戻ってから飲んだ地元プロバンス・ロゼワインが美味かったこと。
この検問のことを翌日、同じ方向のホテルに泊まっているBSのスタッフに報告。「もし日曜もやっていたら……」というと、おなじみの浜島氏が「大丈夫ですよ、今宮さん。僕らも宿に帰ってからでないとアルコールは飲みませんから(笑)」。
ヨーロッパで、しかもフランス(検問場所はフランス領)でも、最近は飲酒運転の取り締まりが厳しくなっている。僕は初めて体験だったが、皆さんの知り合いがこちらを車で走るといったら、ぜひ「飲酒運転にはご注意を」と教えてあげて下さい。

2010年05月25日

地中海2連戦はレッドブルが大噴火!

5月のヨーロッパラウンド「地中海2連戦」は、とうとうレッドブル火山が大噴火。チャンピオンシップ争いにも大きな“地殻変動”が起きようとしている。
スペインGP&モナコGPを連勝したM・ウェバー、ドライバーズポイントでは大量50点を稼ぎ出し、チームメートのS・ベッテルの78点に並んだが、1勝多い彼が初めて首位に立った。オーストラリア人ドライバーがポイントリーダーになったのは、80年代初期のA・ジョーンズ以来のことで30年ぶり。コンストラクターズポイントでもレッドブルがフェラーリ、マクラーレンを一気にオーバーテイクして3位から1位へ、こちらも05年のチーム結成以来初めてトップに立った。

メーカー系名門両チームを伝統の舞台で倒したインディペンデントチームの活躍は、サッカーW杯南ア大会を前にしたヨーロッパでもビッグニュースになっていた。モナコ帰りの夜、2週間ぶりに和食を楽しもうとパリのなじみの寿司屋さんに直行してみると、ここでもご主人が「昨日テレビで見ましたよ。レッドブルってすごく速いんですね!」と興奮気味。レース内容をいろいろと質問され、あれこれ答えているうちに、店内はいつの間にか“ディナー・トークショー”に。おかげで枝豆、酢の物、カリフォルニア裏巻きなどお店からのサービスで、満腹になるほど日本食を堪能することができた。これもレッドブルの優勝が大きく報じられたおかげ(?)。

レッドブルについては、第5戦スペインGPからウェバーとベッテルの二人のドライバーの間に違いが見え始めていることに僕は気づいた。それはフリー走行でのプログラミングの部分で、もともと目指す方向の異なる二人のセッティングが、より顕著になってきたことだ。てきぱきと素早くセットアップを決めていくウェバーは、初日からスムーズにロングラン・チェックに進み、レース想定でBSの2種類のタイヤを比較しながらまとめ上げ、二日目には総仕上げの“予選シミュレーション”を実行する。
一方のベッテルは、セットアップがなかなか自分のストライクゾーンに決まらず、時間がかかってロングランに進めない。気にしているのはブレーキング・フィールのようなのだが、開幕序盤に天才的ドライビングを見せてきたベッテルがマシン挙動に悩み、あれこれセッティングをいじっている姿がいかにももどかし気に見えた。

予選で極限のスピードを追求するとなると、マシンに自信を持てる者と、そうでないもの者の差は、“PP(ポールポジション)バトル”になってはっきりと表れる。この2連戦で連続PPを決めたウェバーに対して、2位-3位に終わったベッテル。結局、予選の一発タイムアタックで勝ったウェバーが、決勝でもスタートを決め、安定したレースペースを見せながら2連勝をものにした。まさに盤石なウェバーのウイニングパターンと言っていい。

モナコGPの後、チームはベッテルが開幕から使用してきたマシンRB6#03号車をトルコGPからチェンジすることを決めた。ウェバーは初戦で#02号車を使い、第2戦から#04号車に切り替え、そこからずっと予選最前列を続けている。マシンに大きな個体差があるとは思えないが、彼がこのシャシーになってから速さを引き出しているのは誰もが認めるところ。だから現状としてセットアップに悩むベッテルに、ここで別のシャシーを与えるのは“治療法”としては納得がいく。新車に切り替わったベッテルが、果たしてイスタンブールで蘇るか。中盤戦の大きな見どころ、キーポイントになるだろう。

さて、いろいろトピックスがあったモナコGPで論議を呼んだのがM・シューマッハの「ペナルティー問題」だ。レース終盤、低速の最終コーナーのラスカスでロータスのJ・トゥルーリとヒスパニアのK・チャンドックがクラッシュ。残り3周というところで、なんと4度目のセーフティカー(SC)出動(新記録)となり、そのままファイナルラップに突入。最終コーナーを前にセーフティカーが戻り、残された数百メートルでのレースとなったが、ここでシューマッハがフェラーリのF・.アロンソをかわし6番手に。しかし、この行為がレース審査委員会に違反と判断され、20秒加算ペナルティーを受けたのだ。
 
このオーバーテイクについて、メルセデスは事故処理が済みSC退去後には“競技状態に戻る”と解釈、ドライバーには「オーバーテイクできる」と指示を出していた。一方のフェラーリやマクラーレンは、最終ラップなのでSCゴール“非競技状態のまま”と解釈、ドライバーには「オーバーテイクするな」という指示を出していた。まったく真逆の指示がチームから出ていたわけである。だから、シューマッハはチームの指示に従い、ラスカス立ち上がりで加速アップ、インサイドラインを突進してアロンソの前に出た。一方のアロンソは、前を行くマクラーレンのL・ハミルトンを抜かないようゆっくり立ち上がり、追い越し禁止という“チーム指示”を守ったのである。

シューマッハの行為に対し、審査委員会が後に決勝タイムに20秒加算のペナルティーを課し、12位ダウンと判定された。メルセデス側は直後には「抗議」を申し立てていたが結局、上告措置は諦めた。ルール解釈上デリケートな部分があるこのSCがらみの“競技再開方法”に関して、FIAは6月23日にもっとはっきりさせることを発表した。個人的には以前のようにSC退去後、競技再開はスタートラインから、とするのが誰にとっても明確で判りやすいと思う。

この問題ですっかり忘れられているが、モナコGPではR・バリチェロの「ステアリング放り投げ事件」もある。レース中にクラッシュしたバリチェロは、マシンを脱出する際、ステアリングをコース上に放り投げ、それを後続のマシンが踏んでしまう事態を発生させた。これはレースの中でも、ドライバーがやってはいけない最も危険な行為だ。それについてバリチェロは「マシンから火が出て自分も危険だったから」と自己弁護している。そんな大ベテランの弁明を聞くと、言葉もない。ステアリングを外し急いでコクピットを出たら、それをはめ戻すのがルールであることを、彼ほどのベテランが知らないはずがないし、百歩譲って危険が迫っていたからとしても、何もコースに放り投げず、持ったままコース脇に避難すればいいことだ(VTRを見ると彼は全力疾走で駆け出してはいない)。後続のHRTのマシンに被害が出たが、もし上位集団が来ていてあれを踏み、弾き飛ばし、大事故にでもなっていたら……。このシーンを見て、僕と同様に昨年のハンガリーGPで起きた不運な“事件”を思い出した人もきっと多かったのではないだろう。
彼のとった行為がペナルティーに値するかどうかを云々するつもりはない。ただモータースポーツに携わる人間として、最低限の「スポーツのモラル」を守って欲しかった。それがベテランドライバーとして、彼のとるべき行為だと思う。

≪以下、パート2に続く≫
 
 

2010年04月26日

アイスランドの火山大噴火の影響を受けた中国GPでシューマッハの苦悩を見た

東京・羽田から上海・虹橋(こうきょう)国際空港までは3時間、ひとっ飛びで行ける。その虹橋空港から約20kmのところに上海サーキットはあり、僕にとっては鈴鹿の次に“すぐ近く”のグランプリだ。そのありがたみをつくづく感じた第4戦中国GP、大会期間中にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山が大噴火、ヨーロッパ各地の空港は火山灰の影響で一時、ほぼすべてが閉鎖され、ピーク日には1,200万人にもの利用客に影響が出た。

「レースどころじゃない」――。
中国GPの舞台裏では18日の決勝終了後、どうやってヨーロッパに戻るか、深刻な事態になっていた。日本の観光客も滞在先で足止めを食う事態になったようだが、ヨーロッパのジャーナリストたちが現場でてんてこ舞いしている姿を見るにつけ、これは大変な事態になったぞと痛感させられた。フライトの変更やルート検討を航空会社と交渉し、ホテルの延泊もしなければならない。ところが上海万博が5月に開幕するせいで、市内のホテルはどこも満室。居場所を確保するのも一苦労だという声が、プレスセンターのあちこちから聞こえてきた。また我々ジャーナリストは、中国滞在許可は5日間という「報道ビザ」なので、その延長手続きも当局に申請しなければならない。そういった予想外の作業に忙殺されるはめになったのである。

ヨーロッパ各国から取材に来ている彼らは、旅慣れている者ばかりということもあり、ヨーロッパ便が飛ばない場合は、上海からアフリカ経由で南から攻めるという者や、アメリカを迂回して西から1周するという者、トルコかドバイまで行き、そこから船かバスでヨーロッパを目指すという者、中にはシベリア鉄道横断を利用して戻るという者まで、さまざまなプランが検討された。

以前、僕が体験したアラスカ・アンカレッジの火山噴火のときには、当時ヨーロッパ便の経由地点だったアンカレッジが空港閉鎖されたため、南回りでヨーロッパを往復したことがあった。確かに時間はよけいにかかったがそう大した問題もなかったから、今回の大噴火とは災害のスケールが違うのだろう。聞いたところではすでに3月下旬からアイスランドでは火山活動が活発化していて、それが今月になって大噴火に至ったとのこと。こうした事前の報道は国内では一切なかったように思うが、いったいどうなっているのだろうか。
 
さて中国GP決勝はスタート30分前に霧雨が来て、56周レースは大混乱。延べ67回もピットストップが行われる事態になった。入り口コーナーやピットレーンでもサイドバイサイドのバトルがあって驚いた人も多かったことだろう(90年代前後にはああした場面がよくあった)。無給油時代のレースは、とにかく積極果敢にコース上で抜くしか手はないのだ。そういう意味では、いままでピット給油戦略に馴れきっていたドライバーたちも、アグレッシブなレースにようやく目覚めたてきたという印象のレースだった。一例を挙げれば、スタートで初めてフライング・ミスを犯したF・アロンソの場合などもそうだろう。今回彼はスタートの一瞬に賭け、チャンスを掴もうとしたものの、結果としてフライングになり、最近では珍しいペナルティーを取られてしまった。だが、これからは彼のようにスタートにこだわる者も増えるだろうから、スタート時の緊張感というのはこれまで以上に高まっていくだろう。

レースではドライタイヤ(ソフト&ハード)、インターミディエイトタイヤ(小雨用)の選択がポイントになり、迷う者、迷わずに行った者、ドライバーとチームの判断力の差が結果に表れた。整理をしなおそう。スタートからゴールまでの“タイヤ選択チャート”だ。
1位J・バトン:ソフト→20周目PITインター→38周目PITインター(2ストップ)。
2位L・ハミルトン:ソフト→2周目PITインター→5周目PITハード→20周目PITインター→37周目PITインター(4ストップ)。
3位N・ロズベルグ:ソフト→20周目PITインター→38周目PITインター(2ストップ)。
4位F・アロンソ:ソフト→2周目PITインター→5周目PITペナルティ→6周目PITソフト→19周目PITインター→38周目PITインター(5ストップ)。
5位R・クビサ:ソフト→20周目PITインター→37周目PITインター(2ストップ)。
6位S・ベッテル:ソフト→2周目PITインター→5周目PITハード→20周目PITインター→37周目PITインター(4ストップ)。
7位V・ペトロフ:ソフト→20周目PITインター→37周目PITインター。(2ストップ)
8位M・ウェバー:ソフト→2周目PITインター→6周目PITハード→19周目PITインター→35周目インター(4ストップ)。
9位F・マッサ:ソフト→2周目PITインター→6周目PITソフト→19周目PITインター→38周目PITインター(4ストップ)。
10位M・シューマッハ:ソフト→2周目PITインター→4周目PITソフト→19周目PITインター→36周目インター(4ストップ)。

復帰4戦目で最悪のレースとなったシューマッハの苦悩が、このチャートから読み取れる。2周目にインターに変えたのは、チームメイトのロズベルグとは違う動きだが、彼と同じ判断をした者もいたから間違ってはいないだろう。ところがシューマッハは4周目で「もうこれではダメだ」と感じ、いち早くドライ・ソフトに戻した。この判断も的確には見えたが、状況はこちらの予想以上に深刻だったようだ。実際にこのソフトで彼は15周しかせず、3度目PITも早め。これはウエット路面でのタイヤマッチングが合わず、磨耗が進んで緊急避難的にタイヤ交換しなければならなかったからだ。19周目に装着したそのインターでも17周しかできず、4度目PITが36周目と早くなり、ここからゴールまでの20周ロングランではペースがガタンと落ちた。新人やマッサにも次々に抜かれていった原因は、異常に進行した激しいタイヤ消耗に他ならなかったのだ――。

ではなぜ彼が、チームメイトのロズベルグよりもこの症状に苦しんだのか?
初日フリー走行から見ていると、彼がセッティングの方向性をつかめず、マシンをいくらいじっても挙動が一向に改善されずに、それどころかますます悪化していくのに苦しんでいる様子が見て取れた。予選になってもマシンの仕上がりは向上せず、チームメイトに0.7秒もの差をつけられた。ご存知のようにF1アタックランで<0.7秒差>というのは巨大な差であり、ブレーキング回数にして5回分ぐらいに相当する。
あのシューマッハが復帰4戦目とはいえ急にそれほど“下手なドライバー”になってしまったのか……。

これは予め個人的な見解と断っておくが、原因はシューマッハと担当エンジニアとの連携がうまくいっていないことにあるように思う。昨年はバトンの担当者だったエンジニアは、超大物のシューマッハの担当になったことで遠慮が出てしまい、コミュニケーション不足に陥っているのか、あるいは細かすぎるシューマッハの注文を吸収できず、セットアップにドライバーの意見が反映されていないのか。いずれにしても、共同でセットアップを構築するドライバーと担当エンジニアには相互理解が絶対不可欠であり、信頼と調和が必要であることは言うまでもない。その絶対不可欠の人間関係が、まだうまく構築されていないとしたら……。フェラーリ時代と全く異なるいまの環境に慣れ、シューマッハがシューマッハらしいレースをするのに、思いのほか時間がかかっている原因は、この“現場セットアップ”にあるように思うのだ。

一方のロズベルグの担当エンジニアはかつて佐藤琢磨や、それ以前にはJ・ビルヌーブと組んだ人物で、初戦から二人のコンビネーションは機能しており、やることなすことすべてが的中、現状のメルセデスのマシンから限界スピードを引き出している。開幕から5位-5位-3位-3位で、ドライバーズランキング2位のポジションは、彼らがトップ3のマシン相手にベストセットアップで挑んできた成果と言っていいだろう。
 加えて同じチーム内でも、シューマッハ組対ロズベルグ組の情報交換が円滑に行われていないようにも見える。この現状には、さすがのR・ブラウン代表もきっと頭を痛めているに違いない。

中国GP終了時点で4戦2勝、5割ペースで、マクラーレンのバトンが首位を行く。これはやや予想外だったがバトン自身すっかり新チームに溶け込み、タイヤ判断などで新担当エンジニアとはあうんの呼吸ですべてがいい方向に回っている。2勝50点+7位と8位で合計60ポイント、勝ち点が大きい2010年ポイント制でリタイアなく二つ勝ったバトンは理想的な展開で開幕4戦を乗り切った。ディフェンディング・チャンピオンらしい戦い方をいまのバトンには感じる。
 
 

2010年04月13日

まだイントロの2連戦で2010年「超大作」の予感。

開幕3戦で、勝者3人登場。しかし、ポールポジション(PP)ウイナーはまだなし。フェラーリのF・マッサが未勝利ながら自身初の“春のポイントリーダー”。今シーズンの開幕3戦は、最近では稀な展開を見せてくれた――。

ご報告が遅くなって申し訳ない。この2連戦はメルボルンからクアラルンプールに直行して現地取材、帰国後も驚くほど寒い東京で原稿に追われ、桜を見る暇もなかった。15日に久々に「文芸春秋ナンバー」がF1大特集を出すので日々その入稿作業が続き、皆さんへのレポートが遅くなってしまった。

第2戦オーストラリアGPも第3戦マレーシアGPもいいレースだった。次に何が起こるか、誰が主人公になるか、短編小説さながらのストーリー性があり、わくわくしながら読み進むような知的興奮を覚えた。チャンピオンシップはまだ“イントロ”なのに、いまからこれだと、短編小説どころか<超大作物語>になりそうな気配だ。

僕は第2戦の注目人物にJ・バトンの名を挙げた。冬のテストでなかなかマクラ―レンのマシンに馴染めずに開幕を迎えた彼が、この2戦目でどれだけドライビングを合わせてこれるか。もし上手くいかないと、彼の考えすぎる性格からして苦戦は必至。昨年のブラウンGPのマシンとは逆に、オーバーステア傾向のあるMP4-25はチームメイトのL・ハミルトン志向のマシンだけにますます彼を調子づかせてしまうことになる。本人もそれをよく理解しているはずだから、アルバートパークの要注目人物に挙げたのだ。
 
余談だが、長い取材経験の中で今回初めてマクラーレンチームと宿舎が一緒になった。コストカットが騒がれているご時世だが、彼らのようなトップチームが我々と同じビジネスホテルにいようとは思わなかった。そのホテルから金曜日朝、ハミルトンがスタッフを乗せ、玄関前からキキーっとタイヤを鳴らしベンツで出て行った。運転はあくまで「俺がするよ」と仲間と相乗り。マネージャーの父親はもういないし、ロンさんも身を引いていない、チームもメルセデスのワークスではなくなり、「自分は好き勝手に何でもできるんだ」といった態度が気になるシーンだった。

その夜の出来事は、もう皆さんもご存知だろう。彼はサーキットを出てすぐ路上で(東京で言えば青山通りだが)、ベンツを振り回し“ドーナツターン”を一般公道で演じて警官に“補導検挙”された。もちろん地元TVのトップニュース、レッカー車にベンツが乗せられ、スタッフがカメラを制止する混乱まで延々流されてしまった。キャスターは「いかがなものか」とコメント、まるでワイドショー並みの扱いだった。

この日、フリー走行(FP)2でトップタイムを出し、2位バトンを抑えた彼が、なぜホテルとは逆方向の“青山通り”でそんな馬鹿げたことをしたのか。ホテルはサーキットからわずか10分たらずの距離だけに、全く意味が分からなかった。おそらくメルセデス本社や、安全運転キャンペーンを行っているFIAは「また余計なことをして…」と不快に感じただろう。だが、これについてはFIAは特に問題にはしなかった。確かにF1のレギュレーションには「公道でのドーナツターンは禁じる」とまで書いてはいないが、サーキット内ではウイニングランで受けても、それを一般公道でやれば危険運転なることは、誰が見ても明らかだろう。

一方のバトンは、土曜日のFP3でハミルトンに先行して6位、予選でもアンダーステア気味にセットアップして4位、タイヤが温まらないと訴えていたチームメイトを11位に下した。流れがよくなると自信を持ち、大胆さも出てくる“分かりやすい性格”のバトン、昨年の開幕7戦6勝を思い出したようだった。
 
決勝スタート前の小雨にインターミディエイト・タイヤを装着してレース開始。その後すぐに「このタイヤは合わない」と感じたバトンはドライ交換を自己判断し、乾いていく路面で綺麗なドライビングを見せ2位浮上。S・ベッテルが中盤の26周目、魔の13コーナーでホイールを破損しコースオフして消えると、タイヤマネージメントに徹して今季初勝利。チームメイトのハミルトンに先んじて挙げた勝利の喜びが、あの「ヤッター!!」の叫びになった。

週明けの火曜日に移動してマレーシアへ(F・アロンソと機内で一緒だった)。不思議なことに今度は宿舎がレッドブル、メルセデス両チームと同じになった。ここは数年前からの定宿で、サーキットまで45kmとちょっと遠いが、我々フリーのジャーナリストには安くてありがたいホテルなのだ。そこへF1チームがというのは、予算削減の折、メカニックだけでも安いホテルに泊まらせようということなのだろう。

セパンではスコールが毎日来て、それが生活の一部になるほど慣れてしまった。気温35℃、炎天下のコースサイドに立っているとあっという間に日焼けサロン状態だ。しかし日曜日はスコールもお休み、予選は混乱したが決勝はドライ勝負で最速ドライバーと最速マシンの組み合わせが、3戦目にして初めて鮮やかなストーリーをコース上で描いてくれた。

ベッテルが勝つレースは運や駆け引き、戦略などは一切関係ない。ひたすら<ドライビング・フォース>で圧倒する。スピードは時としてトラブルで折れることがあるが、心は決して折れることがない――。そんな姿が、個人的にはどうしても新鋭時代のA・セナとダブってくるのだが、セナとは性格も、態度も、言動も全く異なり、特に謙虚さが魅力の“セブ”は、いかにも今の時代に生まれるべくして生まれた「天才人間的グランプリドライバー」という気がしてならない。

翌日は夕方にまたスコール、雨上がりのハイウェイを飛ばしKLエアポートに向かった。東京行きの機内にはF1関係者の姿はなかった。やっとみんな2週間ぶりの自宅へと戻って行ったのだろう。

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