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第9戦ドイツGPはレッドブル・ウェバーが悲願の初優勝!

ブルブル震えるほど寒く冷たいニュルブルクリンクで、レッドブルがイギリスGPに続いて2戦連続で1−2フィニッシュ。シルバーストーンのS・ベッテルに続き、8年目のM・ウェバーがようやく初勝利を手にすることができた。獲れそうで獲れなかったPPを決め、独走ですんなり悲願達成かと、スタート前はイメージしていたのだが。
簡単にはグランプリウイナーにはなれない——。改めてそう感じたレースを分析しよう。

お気づきの方もいただろうがレッドブル・ルノーはスタートダッシュがよくない。いまこのマシンが抱える唯一のウイークポイントがそれだ(ルノーも同様で、ともにエンジンを含めシステムに改善の余地がある)。僕はスタートラインの真ん前、新設された6番コメンタリーブースでTV画面ではなく、目視でスタートの一瞬に注目、集中した。その目の前でまるでロケット発射のような勢いで発進したのは3列目6位にいたマクラーレンのL・ハミルトンだった。KERS付きのマシンだから云々という以前に彼の蹴り出しはぴったりで、機械というより人間の能力で決めたロケットスタートだった(この最初の“キック”がよかったから、さらにKERSパワーが威力を発揮できたのだ)。

PPスタートのウェバーは、まさか6位のハミルトンがぐんぐん左から迫って来るとは思っていなかったのだろう。ミラーでそれを確認した彼は、「まずい!」とばかりに、1コーナーに対してイン側をキープしようと右に動いた。この判断そのものは悪くはなかった。だがすぐ右にはR・バリチェロがいた。ブラウンGPのマシンにはKERSはないが、グリップの劣る2位グリッドからでも、マクラーレンとまったく同等のパワーを発揮するメルセデス・エンジンによって彼は一気に伸びてきていたのだ。

客観的に見てデビューした頃からウェバーは“接触”が多いドライバーの一人だ。僕が取材した何人かのドライバーが「彼は予想がつかないとっさの動きをすることがある」と証言している。あえて言わせてもらうと、ウェバーは接近戦でひとつの動きに過敏に反応するあまり、他の動きに対するリアクションが遅れる傾向があるのではないか。
「スタート時に重要なのはワイドな視野があるかないかだ」——。
これは、1000馬力ターボ時代にA・セナが僕に教えてくれた言葉だ。当時のF1ではスタートで事故が多発していた。ターボパワーがドカーンと爆発する瞬間、「周りがよく見えなくなる者がいる」と彼は言いたかったようだ。

話を戻そう。ウェバーは決して故意ではなく右にいたバリチェロのマシンに当たってしまった。その衝撃で2人がアクセルを緩めた瞬間、ハミルトンがものの見事に2人をかわして先頭に躍り出たのである。しかし望外と言っていいスタートダッシュに有頂天になったのか、次の1コーナーに飛び込むためのブレーキングポイントが遅れた。
「あの速度では1コーナーを回れない」——。
そう僕が予感したとおり、彼のマシンはオーバーランを余儀なくされ、さらにウェバーの左フロントウイング先端に自分の右リアタイヤをわずかに接触、鋭いナイフで切り裂かれるごとくサイドがカットされ、エアが噴出して瞬間的にパンクを起し、万事休すとなってしまった。

もし超スローVTRリプレイ画面がきていたら、中継でもここに書いたような「勝負の一瞬」を克明に追って解説することが出来たかもしれない。ともあれ、ウェバーはスタートで出遅れ、バリチェロに当たり、ハミルトンと接触するという「三つのピンチ」に晒された。だがここから彼は立ち上がり、14周目にペナルティーのピット・ドライブスルーを科せられたものの、それさえも克服、ひたすら挽回に集中して60周目にチェッカーフラッグを受けたのである。

「初勝利のレースはそれまでのどのレースよりも長い」——。
過去の優勝経験者の誰もが言う言葉を、ウェバーも噛み締めたことだろう。
パドックではチーム全員が揃って待ち構え、2位に終わったベッテルも先輩を祝福するためにスタンバイしていた。1時間経ってやっとインタビューから開放されたウェバーが走ってくると、シルバーストーンに続いてシャンパンが一斉に抜かれ、パドックに勝どきの声が上がった。

一方この頃、レッドブルから50メートルも離れていないブラウンGPのモーターホーム内では“大ベテラン”がチーム批判を繰り返していた。メカニックたちが黙々と撤収作業をしている最中にである。自己ベストラップが11位でBMW勢よりも遅かったことはタナに上げ、マシンやスタッフを責める態度はいかがなものか。こういう発言はチームのモラルを下げるだけだ。最近“大ベテラン”は人が変わったようで、93年のデビューから彼を見ている自分はとても残念でならない…。
 
残りは8レース。ポイントではブラウンGPがトップにいるが、レッドブル・チームは“結束力”で完全にブラウンGPを抜き去った。きれいな夕焼けを見ながら僕はそう確信した。 

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