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シンガポール〜鈴鹿2連戦は、F1史上最も過酷な毎日だった Part2

鈴鹿は今のシルバーストーンによく似ている。高速コーナーが次々に連なっていて、平均スピードも時速230キロでほぼ等しく、ドライバーにとって攻める“リズム”が一緒だ。そう感じ取れればマシンセットアップのベースもおのずと決まってくる。あとは若干、鈴鹿向きにモディファイを加えればいい。

今年の第8戦イギリスGPでJ・バトンの連勝を止めたのはS・ベッテル。彼のレッドブルは完璧にシルバーストーンにフィットし、無敵のPPウイン・最速ラップで突っ走った。あまりの速さにバトンとR・ブラウン代表はショックを受け、あそこから“スランプ状態”に落ちていったのは皆さんよくご存知だろう。

僕が早い段階から今年3年ぶりとなる鈴鹿・日本GPの本命にベッテルを指名したのは単なる“マイ・カンピューター”の導き出した答なのだが、そのカンピューターには長年F1を見続けてきた経験値が蓄積されており、そこから客観的に弾き出されたものに過ぎない。だから、根拠は何かといわれれば、自分の経験に裏打ちされた目で見た結果と答える以外にないのだが、その僕の目に、鈴鹿初日時点で「ここでは勝負にならない」とバトンもR・ブラウン代表も消極的になっていった様子が、よく分かった。

例えばコース脇で見ていると、バトンは心理状態が読みやすいタイプのドライバーで、何が何でも行くぞというときにはコクピットでヘルメットが自然と前傾姿勢になってくる。そうでもないときは(マシンが決まらないときなど)、後ろ寄りというか頭の位置が前のめりになってこないのだが、この鈴鹿で見たバトンには何が何でもの前傾姿勢が、残念ながら見られなかった。君子は危うい勝負には出ないもの。ドライバーの性格として、また策士エンジニアの性格としても、両者は鈴鹿で決めるにはリスクが高すぎると思い、最低限入賞さえできればいいと悟ったのだろう。

その結果、予選10位、決勝8位でバトンは1点加算。予選PP、全周回トップで優勝したベッテルは満点の10点。10−1=9点減らしただけのバトンは85対69点で鈴鹿を流して済ませたのだ。
「ここ鈴鹿で決める気はなかったんだ」と強気に公言してみせたポイントリーダーに対し、ベッテルは「鈴鹿は最高のコース、神の手で作られたサーキットだ」と名言を吐いた。まるで昔、「鈴鹿で神を見た」と発言したA・セナのような形容である。そんなコメントと圧倒的な速さに魅せられたのだろうか、日増しに鈴鹿でベッテル・ファンが増えていくのが自分にも感じられた。逆にホンダ時代からのバトン・ファンは醒めていき、誰がいま一番コース上で速いのか、攻めに徹しているのか、ポイント数ではない<現実の最速者>を目の当たりにしたいと思っていたファンの多くを失望させてしまった。

正直言ってバトンがもう少し鈴鹿・日本GPにこだわり、敵が速いのは承知の上でプライドをどこかで見せてくれるたら……。そう思う一方で、彼はそういうがむしゃらな走り、一か八か切り込んでいく勝負を、カートレースの少年時代からとても嫌うドライバーだったということも頭をよぎる。
それはタイトル目前のここまできても変わりはなかった。
「きっとジェンソンはブラジルでもまた“彼らしい”レースを貫き、しかしそこでもし決められなかったら、最終戦アブダビではとんでもない結末になる——。」
初めてのタイトルだからこそ守って獲るべきではなく、最後は何が何でも攻めて獲りに行かなくてはならない。鈴鹿からの帰り道、東名集中工事のために8時間もかかった車内で僕はいろいろ考えさせられたのだった。
<終わり>

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