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フレッシュな顔合わせによる“勝負”が期待できる開幕戦だった。

負の分岐点が29周目からはっきりと見えた——。
ポール・スタートを難なく決めた1位S・ベッテル(レッドブル)は、それまで一時は5秒以上もリードしていた2位F・アロンソ(フェラーリ)に、20周を過ぎるころからじわじわと追い詰められ始めた。

 28周目:ベッテル2分00秒320/アロンソ2分00秒506(−2.422秒)
 29周目:ベッテル2分00秒500/アロンソ1分59秒583(−1.505秒)

このラップだけで約1秒も二人の間隔が縮まった。アロンソがジャブ攻撃を開始し、初めて勝負を争う若い相手がどうでるか、探りを入れたと解釈できる。これはマシンを使った心理戦である。

 30周目:ベッテル2分00秒421/アロンソ2分00秒019(−1.103秒)
 31周目:ベッテル2分00秒283/アロンソ2分01秒451(−1.271秒)
 32周目:ベッテル2分00秒218/アロンソ2分01秒206(−2.259秒)

ベッテルも即座に応じ、毎周ペースアップしてギャップを取り戻しにかかっているのがこのラップタイム変化からも分かるだろう。逆にアロンソはいったんペースを落とし、攻撃をあきらめたかのようにも見えた。しかし、このジャブ攻撃はボディーブローとなって相手のボディーを確実に捉えていた。

33周目を終えたベッテルが34周目に入ったときだった。防音ガラスに囲まれた放送席でヘッドセットマイクを耳に当てている自分たちにも鈍いエンジン音がダイレクトに響いた。ベッテルのマシンが“悲鳴”を上げたのだ。僕も思わず叫んでしまった(今回のCS中継中に衛星回線がたびたび途切れ、その都度、東京側に委ねざるをえずこちらは黙っていなければならないときがあった)。スタンドの観客はこのスポーツの恐ろしさに度肝を抜かれたことだろう。

33周目:ベッテル2分01秒574/アロンソ2分00秒411(−1.096秒)

追撃するアロンソはここぞとばかりにストレートパンチを連打、敵の異常事態を察知し一気に迫っていった。ベッテルのマシンはオイルなど吹き上げていなかったが、明らかなパワーダウン、直線速度が低下している。そう情況を判断しリスクなく安全にオーバーテイクしていったアロンソ。ああいうパッシングショットに技が透けて見える…。

 34周目:アロンソ2分02秒456/ベッテル2分04秒102(−0.550秒)
 35周目:アロンソ1分59秒477/マッサ2分02秒378/ベッテル2分05秒060(−6.133秒)
 
首位奪取に成功せり。アロンソは切り込み、続いてF・マッサもおこぼれちょうだいのオーバーテイクでフェラーリ・チームは08年フランスGP以来となる久々の“1−2”を固め、2010年砂漠の中の開幕ゲームを獲った。2台ともスタート前にエンジン交換を余儀なくされ、そのフレッシュエンジンでマッサは序盤からオーバーヒートに苦しんでいた。手っ取り早い“対策”は燃料を濃くしてエンジン内部を冷却すること、無論そうすれば燃費は悪くなる。無給油ルール新時代に変わった今年、マッサがペースを上げられなかった原因はそれだ。しかし同じく緊急エンジン交換したアロンソにオーバーヒート傾向はなかった。トラブルを未然に防いだところに彼と彼のチームの「勝因」が潜む。

確かに派手なバトルやアクシデント、セーフティーカー導入などの混乱事態はなく、ショーアップという点ではビジュアル的に“退屈”だったという感想は認めよう。だが奥深い心理戦がスタートからずっと続けられ、しかも傷だらけベッテルは後世まで語り継がれるような渾身のドライビングをコーナーで見せ、L・ハミルトンに抜かれ4位に下がった後も、メルセデス勢を“完封”して我々を驚かせた。彼のファンでなくともF1ファンならばあの極限状況でのベストコーナリングに大いに魅せられたはずだと僕は信じている。順位変動がふんだんにあればそれはそれでよし、ガチャガチャしたレースも、戦略的な駆け引き計算バーチャルゲームもオモシロイだろう。でもたとえば野球ではホームラン連発の乱打戦もいいが零対零の息詰まる投手戦も面白く、ベースボールを長く愛する人はそういうゲームにむしろ引きずり込まれるという。要は視点をどこに置いて見るかではないだろうか。

もし、ベッテルにあのトラブルがなく“ガチンコ勝負”になっていたらどうなったか?
皆さんも気になっているだろうから、ひとつの客観事実データを挙げてみよう。
ベッテルの最高速度はあのトラブル発生以前に記録した301.0Km/hで、これはロータスやヒスパニアよりも遅いどん尻の24位。1位マクラーレンのハミルトンは314.8km/hでその差は15km/h近い。フルダウンフォース仕様だったベッテルが、肉薄するアロンソ(最高速度12位/306.6km/h)を抑えきれたかどうか、僕はかなり難しかったというほかはない。独走状態になってもやすやすと最速ラップ1分58秒287を出していたアロンソはいざとなれば1分57秒、いや56秒台も出し切れたと推定できる。それに健康状態のベッテルが応戦し、お互いにコース上でストレートパンチの応酬が見られていたら2010年開幕戦は近年まれな名勝負となったことだろう。

いやいや今年はまだこれから18戦もあるのだ。いつかきっと、いや近いうちに二人のガチンコ勝負は実現するだろう。彼らを含め数々のフレッシュな顔合わせのマッチレースを期待させる第1戦バーレーンGP開幕戦だった。

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