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まだイントロの2連戦で2010年「超大作」の予感。

開幕3戦で、勝者3人登場。しかし、ポールポジション(PP)ウイナーはまだなし。フェラーリのF・マッサが未勝利ながら自身初の“春のポイントリーダー”。今シーズンの開幕3戦は、最近では稀な展開を見せてくれた——。

ご報告が遅くなって申し訳ない。この2連戦はメルボルンからクアラルンプールに直行して現地取材、帰国後も驚くほど寒い東京で原稿に追われ、桜を見る暇もなかった。15日に久々に「文芸春秋ナンバー」がF1大特集を出すので日々その入稿作業が続き、皆さんへのレポートが遅くなってしまった。

第2戦オーストラリアGPも第3戦マレーシアGPもいいレースだった。次に何が起こるか、誰が主人公になるか、短編小説さながらのストーリー性があり、わくわくしながら読み進むような知的興奮を覚えた。チャンピオンシップはまだ“イントロ”なのに、いまからこれだと、短編小説どころか<超大作物語>になりそうな気配だ。

僕は第2戦の注目人物にJ・バトンの名を挙げた。冬のテストでなかなかマクラ—レンのマシンに馴染めずに開幕を迎えた彼が、この2戦目でどれだけドライビングを合わせてこれるか。もし上手くいかないと、彼の考えすぎる性格からして苦戦は必至。昨年のブラウンGPのマシンとは逆に、オーバーステア傾向のあるMP4−25はチームメイトのL・ハミルトン志向のマシンだけにますます彼を調子づかせてしまうことになる。本人もそれをよく理解しているはずだから、アルバートパークの要注目人物に挙げたのだ。
 
余談だが、長い取材経験の中で今回初めてマクラーレンチームと宿舎が一緒になった。コストカットが騒がれているご時世だが、彼らのようなトップチームが我々と同じビジネスホテルにいようとは思わなかった。そのホテルから金曜日朝、ハミルトンがスタッフを乗せ、玄関前からキキーっとタイヤを鳴らしベンツで出て行った。運転はあくまで「俺がするよ」と仲間と相乗り。マネージャーの父親はもういないし、ロンさんも身を引いていない、チームもメルセデスのワークスではなくなり、「自分は好き勝手に何でもできるんだ」といった態度が気になるシーンだった。

その夜の出来事は、もう皆さんもご存知だろう。彼はサーキットを出てすぐ路上で(東京で言えば青山通りだが)、ベンツを振り回し“ドーナツターン”を一般公道で演じて警官に“補導検挙”された。もちろん地元TVのトップニュース、レッカー車にベンツが乗せられ、スタッフがカメラを制止する混乱まで延々流されてしまった。キャスターは「いかがなものか」とコメント、まるでワイドショー並みの扱いだった。

この日、フリー走行(FP)2でトップタイムを出し、2位バトンを抑えた彼が、なぜホテルとは逆方向の“青山通り”でそんな馬鹿げたことをしたのか。ホテルはサーキットからわずか10分たらずの距離だけに、全く意味が分からなかった。おそらくメルセデス本社や、安全運転キャンペーンを行っているFIAは「また余計なことをして…」と不快に感じただろう。だが、これについてはFIAは特に問題にはしなかった。確かにF1のレギュレーションには「公道でのドーナツターンは禁じる」とまで書いてはいないが、サーキット内ではウイニングランで受けても、それを一般公道でやれば危険運転なることは、誰が見ても明らかだろう。

一方のバトンは、土曜日のFP3でハミルトンに先行して6位、予選でもアンダーステア気味にセットアップして4位、タイヤが温まらないと訴えていたチームメイトを11位に下した。流れがよくなると自信を持ち、大胆さも出てくる“分かりやすい性格”のバトン、昨年の開幕7戦6勝を思い出したようだった。
 
決勝スタート前の小雨にインターミディエイト・タイヤを装着してレース開始。その後すぐに「このタイヤは合わない」と感じたバトンはドライ交換を自己判断し、乾いていく路面で綺麗なドライビングを見せ2位浮上。S・ベッテルが中盤の26周目、魔の13コーナーでホイールを破損しコースオフして消えると、タイヤマネージメントに徹して今季初勝利。チームメイトのハミルトンに先んじて挙げた勝利の喜びが、あの「ヤッター!!」の叫びになった。

週明けの火曜日に移動してマレーシアへ(F・アロンソと機内で一緒だった)。不思議なことに今度は宿舎がレッドブル、メルセデス両チームと同じになった。ここは数年前からの定宿で、サーキットまで45kmとちょっと遠いが、我々フリーのジャーナリストには安くてありがたいホテルなのだ。そこへF1チームがというのは、予算削減の折、メカニックだけでも安いホテルに泊まらせようということなのだろう。

セパンではスコールが毎日来て、それが生活の一部になるほど慣れてしまった。気温35℃、炎天下のコースサイドに立っているとあっという間に日焼けサロン状態だ。しかし日曜日はスコールもお休み、予選は混乱したが決勝はドライ勝負で最速ドライバーと最速マシンの組み合わせが、3戦目にして初めて鮮やかなストーリーをコース上で描いてくれた。

ベッテルが勝つレースは運や駆け引き、戦略などは一切関係ない。ひたすら<ドライビング・フォース>で圧倒する。スピードは時としてトラブルで折れることがあるが、心は決して折れることがない——。そんな姿が、個人的にはどうしても新鋭時代のA・セナとダブってくるのだが、セナとは性格も、態度も、言動も全く異なり、特に謙虚さが魅力の“セブ”は、いかにも今の時代に生まれるべくして生まれた「天才人間的グランプリドライバー」という気がしてならない。

翌日は夕方にまたスコール、雨上がりのハイウェイを飛ばしKLエアポートに向かった。東京行きの機内にはF1関係者の姿はなかった。やっとみんな2週間ぶりの自宅へと戻って行ったのだろう。

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