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アイスランドの火山大噴火の影響を受けた中国GPでシューマッハの苦悩を見た

東京・羽田から上海・虹橋(こうきょう)国際空港までは3時間、ひとっ飛びで行ける。その虹橋空港から約20kmのところに上海サーキットはあり、僕にとっては鈴鹿の次に“すぐ近く”のグランプリだ。そのありがたみをつくづく感じた第4戦中国GP、大会期間中にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトル氷河の火山が大噴火、ヨーロッパ各地の空港は火山灰の影響で一時、ほぼすべてが閉鎖され、ピーク日には1,200万人にもの利用客に影響が出た。

「レースどころじゃない」——。
中国GPの舞台裏では18日の決勝終了後、どうやってヨーロッパに戻るか、深刻な事態になっていた。日本の観光客も滞在先で足止めを食う事態になったようだが、ヨーロッパのジャーナリストたちが現場でてんてこ舞いしている姿を見るにつけ、これは大変な事態になったぞと痛感させられた。フライトの変更やルート検討を航空会社と交渉し、ホテルの延泊もしなければならない。ところが上海万博が5月に開幕するせいで、市内のホテルはどこも満室。居場所を確保するのも一苦労だという声が、プレスセンターのあちこちから聞こえてきた。また我々ジャーナリストは、中国滞在許可は5日間という「報道ビザ」なので、その延長手続きも当局に申請しなければならない。そういった予想外の作業に忙殺されるはめになったのである。

ヨーロッパ各国から取材に来ている彼らは、旅慣れている者ばかりということもあり、ヨーロッパ便が飛ばない場合は、上海からアフリカ経由で南から攻めるという者や、アメリカを迂回して西から1周するという者、トルコかドバイまで行き、そこから船かバスでヨーロッパを目指すという者、中にはシベリア鉄道横断を利用して戻るという者まで、さまざまなプランが検討された。

以前、僕が体験したアラスカ・アンカレッジの火山噴火のときには、当時ヨーロッパ便の経由地点だったアンカレッジが空港閉鎖されたため、南回りでヨーロッパを往復したことがあった。確かに時間はよけいにかかったがそう大した問題もなかったから、今回の大噴火とは災害のスケールが違うのだろう。聞いたところではすでに3月下旬からアイスランドでは火山活動が活発化していて、それが今月になって大噴火に至ったとのこと。こうした事前の報道は国内では一切なかったように思うが、いったいどうなっているのだろうか。
 
さて中国GP決勝はスタート30分前に霧雨が来て、56周レースは大混乱。延べ67回もピットストップが行われる事態になった。入り口コーナーやピットレーンでもサイドバイサイドのバトルがあって驚いた人も多かったことだろう(90年代前後にはああした場面がよくあった)。無給油時代のレースは、とにかく積極果敢にコース上で抜くしか手はないのだ。そういう意味では、いままでピット給油戦略に馴れきっていたドライバーたちも、アグレッシブなレースにようやく目覚めたてきたという印象のレースだった。一例を挙げれば、スタートで初めてフライング・ミスを犯したF・アロンソの場合などもそうだろう。今回彼はスタートの一瞬に賭け、チャンスを掴もうとしたものの、結果としてフライングになり、最近では珍しいペナルティーを取られてしまった。だが、これからは彼のようにスタートにこだわる者も増えるだろうから、スタート時の緊張感というのはこれまで以上に高まっていくだろう。

レースではドライタイヤ(ソフト&ハード)、インターミディエイトタイヤ(小雨用)の選択がポイントになり、迷う者、迷わずに行った者、ドライバーとチームの判断力の差が結果に表れた。整理をしなおそう。スタートからゴールまでの“タイヤ選択チャート”だ。
1位J・バトン:ソフト→20周目PITインター→38周目PITインター(2ストップ)。
2位L・ハミルトン:ソフト→2周目PITインター→5周目PITハード→20周目PITインター→37周目PITインター(4ストップ)。
3位N・ロズベルグ:ソフト→20周目PITインター→38周目PITインター(2ストップ)。
4位F・アロンソ:ソフト→2周目PITインター→5周目PITペナルティ→6周目PITソフト→19周目PITインター→38周目PITインター(5ストップ)。
5位R・クビサ:ソフト→20周目PITインター→37周目PITインター(2ストップ)。
6位S・ベッテル:ソフト→2周目PITインター→5周目PITハード→20周目PITインター→37周目PITインター(4ストップ)。
7位V・ペトロフ:ソフト→20周目PITインター→37周目PITインター。(2ストップ)
8位M・ウェバー:ソフト→2周目PITインター→6周目PITハード→19周目PITインター→35周目インター(4ストップ)。
9位F・マッサ:ソフト→2周目PITインター→6周目PITソフト→19周目PITインター→38周目PITインター(4ストップ)。
10位M・シューマッハ:ソフト→2周目PITインター→4周目PITソフト→19周目PITインター→36周目インター(4ストップ)。

復帰4戦目で最悪のレースとなったシューマッハの苦悩が、このチャートから読み取れる。2周目にインターに変えたのは、チームメイトのロズベルグとは違う動きだが、彼と同じ判断をした者もいたから間違ってはいないだろう。ところがシューマッハは4周目で「もうこれではダメだ」と感じ、いち早くドライ・ソフトに戻した。この判断も的確には見えたが、状況はこちらの予想以上に深刻だったようだ。実際にこのソフトで彼は15周しかせず、3度目PITも早め。これはウエット路面でのタイヤマッチングが合わず、磨耗が進んで緊急避難的にタイヤ交換しなければならなかったからだ。19周目に装着したそのインターでも17周しかできず、4度目PITが36周目と早くなり、ここからゴールまでの20周ロングランではペースがガタンと落ちた。新人やマッサにも次々に抜かれていった原因は、異常に進行した激しいタイヤ消耗に他ならなかったのだ——。

ではなぜ彼が、チームメイトのロズベルグよりもこの症状に苦しんだのか?
初日フリー走行から見ていると、彼がセッティングの方向性をつかめず、マシンをいくらいじっても挙動が一向に改善されずに、それどころかますます悪化していくのに苦しんでいる様子が見て取れた。予選になってもマシンの仕上がりは向上せず、チームメイトに0.7秒もの差をつけられた。ご存知のようにF1アタックランで<0.7秒差>というのは巨大な差であり、ブレーキング回数にして5回分ぐらいに相当する。
あのシューマッハが復帰4戦目とはいえ急にそれほど“下手なドライバー”になってしまったのか……。

これは予め個人的な見解と断っておくが、原因はシューマッハと担当エンジニアとの連携がうまくいっていないことにあるように思う。昨年はバトンの担当者だったエンジニアは、超大物のシューマッハの担当になったことで遠慮が出てしまい、コミュニケーション不足に陥っているのか、あるいは細かすぎるシューマッハの注文を吸収できず、セットアップにドライバーの意見が反映されていないのか。いずれにしても、共同でセットアップを構築するドライバーと担当エンジニアには相互理解が絶対不可欠であり、信頼と調和が必要であることは言うまでもない。その絶対不可欠の人間関係が、まだうまく構築されていないとしたら……。フェラーリ時代と全く異なるいまの環境に慣れ、シューマッハがシューマッハらしいレースをするのに、思いのほか時間がかかっている原因は、この“現場セットアップ”にあるように思うのだ。

一方のロズベルグの担当エンジニアはかつて佐藤琢磨や、それ以前にはJ・ビルヌーブと組んだ人物で、初戦から二人のコンビネーションは機能しており、やることなすことすべてが的中、現状のメルセデスのマシンから限界スピードを引き出している。開幕から5位−5位−3位−3位で、ドライバーズランキング2位のポジションは、彼らがトップ3のマシン相手にベストセットアップで挑んできた成果と言っていいだろう。
 加えて同じチーム内でも、シューマッハ組対ロズベルグ組の情報交換が円滑に行われていないようにも見える。この現状には、さすがのR・ブラウン代表もきっと頭を痛めているに違いない。

中国GP終了時点で4戦2勝、5割ペースで、マクラーレンのバトンが首位を行く。これはやや予想外だったがバトン自身すっかり新チームに溶け込み、タイヤ判断などで新担当エンジニアとはあうんの呼吸ですべてがいい方向に回っている。2勝50点+7位と8位で合計60ポイント、勝ち点が大きい2010年ポイント制でリタイアなく二つ勝ったバトンは理想的な展開で開幕4戦を乗り切った。ディフェンディング・チャンピオンらしい戦い方をいまのバトンには感じる。
 
 

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