« シーズン曲がり角、第7戦はとても気分の重いゲームだった。 | メイン | 大混乱のヨーロッパGP、小林可夢偉7位入賞 »

マクラーレンが2戦連続1-2フィニッシュ、反撃攻勢に転じたカナダGP。

レッドブルがまた拙いレースをやってしまったカナダGP。うまいレースをしたマクラーレンが2戦連続、今季3度目になる1−2フィニッシュ。レッドブル内部にはまだ“トルコ後遺症”がくすぶっている気配が感じられ、そこをマクラーレン勢とフェラーリ、F・アロンソに突かれた。

ここまでの8戦・全491周のラップリーダー記録は1位M・ウェバー210周、2位S・ベッテル117周、3位J・バトン73周、4位L・ハミルトン55周、5位アロンソ18周、6位N・ロズベルグ17周、7位S・ブエミ1周となっている。圧倒的な数字だ。レッドブルが実に327周も“支配”していて、現在ランキング首位のマクラーレンは3分の一程度の128周でしかない。これほど速い(速かった)レッドブルが3勝、193点の2位というのだから、4勝、215点の“名門チーム”がいかに“上手に”ゲームを戦ってきたか分かるだろう。

さて2年ぶりの開催となった31回目のカナダGP(モントリオール)に、初めて大西洋周りで行った。というのも僕は5月上旬に日本を出てから、第5戦スペイン〜第6戦モナコ〜第7戦トルコとずっとヨーロッパをベースに移動、このカナダGPもやはりパリから移動した。いままでは日本からシカゴかNY経由で乗り継ぎ、正味20時間弱ほどかかっていたフライトが7時間少々で済んだ。おかげで13時間の昼夜逆転時差にも悩まされず、機内ではエア・フランスの美味料理も楽しめた。ヨーロッパのF1関係者がカナダGPを好む理由がよく分かった。

疲労感もなくすぐそのまま空港からサーキットに直行、コースを韓国車KIAのリオというセダンで走った。「何も変わっていないな」。これが2年ぶりのジル・ビルヌーブ・サーキットの印象。コース幅は狭く、パドックも狭い。我々のプレス駐車場も狭く、車はボートコース脇の土手の草地に乗り上げて止める。プレスルームはボートコースの中の水上に“仮設小屋”を作ったもので、人が歩くたびに床が揺れる。アメリカやカナダには巨漢体型の男女が多いから、絶えず“余震”が続く。贅沢はいわないが30年前からほとんどアップデートがないサーキット施設はいまやここだけだ。幸い今年はコースの舗装が剥がれずGPウイークは無事進行できたが、進歩していたのはこれくらいだった(といっても剥がれないのが当たり前なのだが)。

それでもコースレイアウト自体は攻めがいがあり、オーバーテイクポイントもあって、ブレーキングテクニックが見どころになる。壁ぎりぎりでマシン・コントロールをする技術、勇気、集中力が必要とされる、モナコGPとはまた違った“ドライバーズサーキット”だ。今年ここを走った日本人は、たぶん僕と小林可夢偉君だけだろう(彼は戦うために、僕は伝えるために)。KIAでレーシングラインをゆっくり走りながら、シケインでは縁石にタイヤを引っ掛け、出口ではコンクリートウオールに接近し、わざとオフラインも通って視界などを確認。TV画面では伝わってこないリアルな感覚を自分の体に染み込ませるのが目的だ。

1周目、最終シケイン入り口でN・ヒュルケンベルグとM・シューマッハと競り合いながら、インサイドラインになった小林は縁石をまたいでしまい、コントロールできなくなって出口右側にクラッシュ。「ボンジュール・ケベック看板」に刺さった。9位争いの代償は高くついた。でも周りにカムイ・コバヤシは相手が新人であろうと、シューマッハだろうとファイトするドライバーだということをまた知らしめた。
「体は大丈夫? お尻とか腰にきたんじゃない」
レース後に話しかけた。セダンならなんともないがあの高い縁石をまたいでいった衝撃は、僕なりに想像できる。
「いやあ平気でしたよ。でも乗用車で乗り越えるとどんな感じなんです?」
逆に小林君に質問された。
「ウン、車は斜めに傾いて、前は見えなくなるね」
そう答えると、彼もよく見えなかったと小声で呟いた。
ワンプレーのミスから彼自身が何を感じ、何を学んでいけるか。新人10戦目、初カナダの痛い教訓を活かせればクラッシュの代償は取り戻せる。そんな願いを込めて夕方パドックで「次のバレンシアでがんばろう」と笑いながら別れた。

4位ベッテルと5位ウェバーには笑顔はなく、3位アロンソもそうだった。予選後ギアボックス交換トラブルによって2位から7位に降格したウェバー、また問題が発生した。彼らのタイヤチョイスは予選をミディアムで行き(スタートもこれになる)、やや消極的な作戦を取った。レースではタイヤマッチングに迷いがあり、第2スティントでウェバーにはミディアムを、ベッテルにはスーパーソフトを履かせた。これも上手ではない作戦だ。しかも、1位でハミルトンを11秒以上リードしていたウェバーの第3スティント・タイミングがずれ、結局5位に下がってしまった。さらにベッテルには中盤からギアシフトに異常事態が起こり、タイムペースが乱れた。こうした不具合が生じると、さすがのベッテルも参る。集中力が途切れがちでクラッシュの不安を抱かせたが、それはなんとか避けて4位に…。

一方アロンソは彼らしい巧妙なゲーム展開を見せ、マクラ—レン1−2を阻むチャンスを狙って追った。が、28周目ピットインラップでJ・トゥルーリに引っ掛かりタイムロス、4秒2の停止時間は素早かったのにハミルトンに前に出られてしまう。さらに56周目、6コーナーで今度はK・チャンドックにひっかかり、加速が鈍ったところをバトンに前に行かれてしまった。あれはマクラーレン・バトンが速かったというよりも、チャンドックがいたから一瞬アロンソが“失速”したせいだ。勝負師アロンソは表彰台で一応の笑顔を見せて悔しさをかみ殺していたが、マシンもチームもピットクルーたちも(自分も)ベストで戦いながら、二つの“不運”が重なって25点を取り損ねた結果に、内心は怒り狂っていたのである。

かくしてマクラーレンはまんまと1−2をいただき、ハミルトンはすっかり有頂天に。スピードボーイはいったん調子付くと勢いに乗って天まで昇るタイプ、バレンシアで“ハットトリック3連勝”をやってみせると宣言するほど強気だ。地道にマシン開発を続けながら、レースの流れを読み、全くトラブルフリーでハミルトンをのびのびと走らせる名門チームが、反撃攻勢に転じたカナダであった。

カテゴリー