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シーズン曲がり角、第7戦はとても気分の重いゲームだった。

レッドブルのM・ウェバーとS・ベッテル、マクラーレンのL・ハミルトンとJ・バトン。ドライバーズランキングで上位を占める4人が、新旧2強チーム対決という背景を背負って“ドッグファイト”を演じたトルコGP。このままいけば何かが起きる……、そんな胸騒ぎを覚えたレースは、今季初めてのことだった。

この4人、ドライバーとしてはかなりタイプが異なる。その点も興味深いが、今回はTV解説では言い尽くせなかった心理的なアングルから、あの<衝撃のアクシデント>を分析してみよう。

スペイン〜モナコと2連勝でトルコGPに乗り込んだウェバーは、最近、速さに磨きがかかってきたとはいえ、勝ちパターンはたったひとつ“PP独走”しかなくて、競り合いに強いほうではない。実際、接戦に持ち込まれると急に接触率が高くなり、昨年までのアクシデント率は138戦で13.3%と中堅クラスにしては相当高い。

若いベッテルも爆発的なスピードを有する反面、アクシデント率は18.6%とウェバー以上の高さだ。リスキーなバトルに果敢に挑んでいくだけに、事故には絡みやすい。その点が新鋭期のA・セナを彷彿させる部分でもあるのだが(だからスリリングなのだが)。
 
一方、ハミルトンはイメージよりもアクシデント回数は少なく6%。サイドバイサイドの争いに強く、07年にはアメリカンGPでF・アロンソと紙一重の並走バトルを平然とやってのけた。接近戦で周囲を“見切る能力”は天性のもので、むしろ単独疾走中にミスを犯しやすいタイプだ。

この3人の後ろにつけていたバトンはデビュー時から無謀な攻撃を嫌い、行くときには行くが、それまではじっくりとチャンスを待つ優等生タイプ。少年時のカート時代から接触事故を避けるクリーンなレースを心がけてきた彼は、それ故、やや消極的なところがあると見られてきたが、昨年のタイトル獲得で自分のレーススタイルに自信を深めている。

競り合いに弱い者を、接触も厭わない若者が追い、バトルに強い者が見極め、チャンスをじっと狙う者が背後で待つ——。これで何かが起きないわけはない。
40周目、12コーナーに向かうストレートでベッテルは完全にウェバーをキャッチアップ。燃費的に余裕があり、パワーベストモードで追う彼はタイヤグリップもよく、明らかにコーナリング速度が高く、仕掛けずにこのまま従う理由はなかった。背後からは3位のハミルトンがせっつくように迫っている……。

問題なのは、なぜここでレッドブル・チームは的確な戦況把握をして、ウェバーに「ペースアップ」の指示を出さなかったのかということだ。ウェバーがもっとタイムアップしないとベッテルは前に詰まってしまい、直線MAXスピードに勝るマクラーレン・ハミルトンに攻略されるのは、時間の問題だった。さらに、その後ろに控えるバトンまで切り込んでくることが予想される状況で、チームとしての選択はたった一つしかないはずだった。

確かに「チームオーダー」は禁止されている。だがストラテジックな「チームコントロール」はできるし、しなければいけない。それなのにウェバーに的確な指示がなかったというのは、こうした究極の“接戦ケース”を彼らが想定していなかったということだろうか。こうした場面では、ドライバーと担当エンジニア、そして首脳陣らが総合的に情報を共有化し、最終的に誰が采配の指揮権(責任)を持つのか、そのマネージメントが問われる。それは技術監督A・ニューウェイの仕事ではないし、もちろんアドバイザー役のH・マルコでもないだろう。それなのに、レース後チーム内からさまざまなコメントが流出し、悪者探しのような“混乱”があったのは、結成まだ5年というレッドブル・レーシングの若さであり弱さといってもいいだろう。最速マシンは造れても、組織作りはまだまだマクラーランやフェラーリには及ばない。それが露呈された大きな“事件”だった。

話をレースに戻そう。接触に至る非はチームにあったといえるが、事故発生の瞬間映像を何度か検証すると、ウェバーがベッテルの動きに対し反応が遅れていることが分かる。ひょっとすると彼は一瞬、ベッテルの存在を見失っていたのかもしれない(と思われる)。あの場面、ベッテルが右に寄ったのは故意ではなく、オフラインなのでマシンが滑ったという解釈もできる。ウェバーは左に並ばれた時に予測反応としてそれをイメージし、自分も右に振って避けるラインを取り、12コーナーをアウトからレコードラインで進入していけば、イン側のベッテルは止まり切れず、彼の単独スピンで終わっていた可能性もある。

レース後の記者会見(TVインタビューの後なのでオンエアされず)で、ウェバーの表情はずっと青ざめていた。それを見て、300Km/hオーバーでチームメイトと当たったショックは、想像以上に衝撃的なものだったのだろうと、僕は感じた。
夕方、さんざん報道陣に追いかけられていた彼が、ポツンとひとりで佇んでいる場面に偶然遭遇した。相変わらず思い詰めた表情で、その姿がこのレースでの出来事をすべて語っているような気がした。

僕は話しかけることをやめ、軽く手を挙げて挨拶をした。ウェバーは気分が解放されたように少しだけの作り笑顔を返してきた。
トルコの教訓、イスタンブールの教えを彼らがこれからどう活かしていくのか。「ヒューマンスポーツF1」をアピールする、シーズン曲がり角の第7戦はとても重たいゲームだった。

P.S.
ここでお知らせです。第11回「クロストーク・イベント」は、盛夏8月東京のいつもの場所で開催予定で、只今準備を進めています。トルコGPではある女性ファンから「今度のイベントはいつですか?」と声をかけられ、こんなに遠くまで観戦に来ている彼女の熱意と併せてちょっと胸キュンとなりました。それにお応えする意味でも、今年も夏休み返上でやります! 開催日時は間もなくお知らせしますのでF1LOYERSの皆さん、夏の“バカンスプラン”のどこかに加えておいてください。内容は今回も盛りだくさん、4強チームの○と×、中間チームの争い、ザウバー小林の心境など、TVやプリントメディアでは表現できなかったことを、直接皆さんにお話しします。もちろん皆さんからのご意見、ご質問も大歓迎。幅広いファン層の方に支えられて11回目、ビギナーの方からベテラン世代までウェルカムです(!)。ご期待ください。

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