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2010年07月 アーカイブ

2010年07月04日

大混乱のヨーロッパGP、小林可夢偉7位入賞

タクシーで通えるのはここバレンシアのヨーロッパGPぐらいだ。市内北駅近くの常宿ホテルからは約10分、10ユーロ程度の料金で行ける。途中、渋滞もなく安くて確実。行き返りの車内でいろいろ考える時間が持てるのもいい。だから最初の年からレンタカーは使用していない。
バレンシアの街並みは小奇麗で、今年は6月下旬に日程が早まったから朝から灼熱の陽射しを浴びることもない。街のはずれのハーバーサイドにあるサーキットに着くと気持ちいい風が緩やかに吹いている。同じ地中海沿いのモナコGPよりもずっと庶民的な雰囲気で好感が持て(物価も安いし)、個人の観戦旅行ならここは絶対にお勧めのグランプリだ。

4年に一度のサッカーW杯の予選リーグが重なり、週末のF1パドック内ではモーターホームのTVにみんなが群がり大騒ぎ。チーム関係者には本物の“フットボールファン”が多く、ドライバーも各国スター選手たちと普段から交流があるので、チームの内情にとても詳しい。我々には番狂わせに見えたイタリア、フランスの敗退も彼らには予測されていた結果らしい。
「ニッポンはよくやったじゃないか」――。
敗退したフランスの連中に言われた。その心は「体も小さく、プレス能力もなく、ストライカーもいないのに、面白いゲームをした」という意味だ。こちらではサッカーとはあまり言わずフットボールと言っているが、ニッポンの<蹴球道>は新鮮に見えたらしい。確かに日本のゲームスタイルは大リーグのイチローのような“スモールベースボール(野球)”に似ていて、メジャーリーガーたちとは一味違う細やかな攻・守・走が面白い。僕はそこが共通しているように感じた。

予選18位、既成9チームのビリに下がった小林可夢偉は2戦連続ワーストポジション。予選はBSプライムタイヤ(硬い)で1分39秒669、オプション(柔らかい)で1分39秒343、あまりタイムアップできなかった。チームメートのP・デ・ラ・ロサは0.8秒アップしているのに、オプションのアタックに失敗した小林はQ1ノックアウトだった。
しかし内容をチェックしてみるとプライムではデ・ラ・ロサを上回り、マシンにはフィットしていた。決勝を前に小林はこのプライムをスタートで選択。同じプライムを選択したドライバーは7人いたが、M・シューマッハ以外は新興チームの連中だけに奇策といえば奇策だった。

このプライムでとにかく引っ張る――。小林はGP2時代もこうした他とは違う“ロング&ショート作戦”をしばしば決めている。過去2回のヨーロッパGPでセーフティーカーの出動はないが、この日は前座のGP2で大追突事故(M・ウェバーとH・コバライネンのケースに酷似)があったし、F1以外では頻繁に出ている。これもチームとともに想定し、そうなったときは先にピットインしてオプションにスイッチするのはデ・ラ・ロサで、小林は“ステイアウト”する別々の“連携作戦”を事前に組んだ。シンプルな作戦だ。

ただしこれを実行するためには、小林がプライムタイヤを消耗させず、ミスなく走るのが絶対条件。ビッグブレーキングが多いここではフロントがロックしやすく、表面にフラットスポットができやすい(1位S・ベッテルも実はこれで苦しんでいた)。また加速時にはホイールスピンしやすく、リアの磨耗を進行させやすい。小林はこの点も十分注意した。「タイヤマネージメント」という言葉を僕は昔から使っているが、具体的にはこういう細やかなドライビングスキルを意味している。

9周目に事故発生――。ウェバーがストレートエンド12コーナーで、コバライネンのマシンに追突したアクシデントについて一言で言うなら、あれはウェバーが“Fダクト”を片手操作中に追い越そうとして起きたように僕には見えた。 右左に進路を変えながらバトルするその一瞬に、ステアリング操作に集中できずダクト操作で忙しかったとしたら……、TV画面からはそう感じられた。
ともあれウェバーが大事に至らなかったのは、マシンが丈夫だったからではなく、上下左右に回転しながら偶然ああいう形で収まったからだ。付け加えるなら、レッドブルのチーフ・テクニカル・オフィサー、A・ニューウェイさんは、この“Fダクト使用片手運転”に危惧を抱いていた人物の一人だった。

もう一言言おう。この事故でセーフティーカーが出動、1コーナー手前で並走する2位L・ハミルトンは一度アクセルを緩めている。ここで彼はセーフティーカーの存在を見た(に違いない)。がその直後、なんとこの<安全確保車両>を抜いて行った。これを直後の3位F・アロンソははっきり目撃したが、減速して従いこれによってピットインタイミングで“大損”して順位を下げることになった。さらに、このハミルトン重大違反が審議対象になったのは10周以上後であり、ドライブスルー・ペナルティーが宣告されたのはさらに4周あとだった。遅すぎる(アロンソが感情的にFIA批判したのもよく分る……)。
問題点は二つ、なぜセーフティーカー・ドライバーは、すぐにレースディレクターに「いまカーナンバー2が追い越した」と報告しなかったのか。報告したとすれば、なぜジャッジを下すまであれほど時間がかかったのか。時間がかかればかかるほど、違反行為者は得をすることになる。
もうひとつは、93年からF1に採用された安全確保が目的のセーフティーカーを追い越すという重大な違反なのに、ドライブスルー・ペナルティーは軽すぎるのではないかという点だ。W杯サッカー大会でも審判の“誤審”が問題になりFIFAはさっそく検討を始めたそうだが、ルールを守った者と守らなかった者を公平に裁き、スポーツの信憑性(誰が見ても分りやすい競技性)を高める取り組みを、FIAはもっと徹底しなければならないと僕は思う。

長くなるがレース後、さらに9台がセーフティーカー・ラン中の基準タイム違反で、レースタイムに一律5秒加算のペナルティーが下った。試合終了約4時間後の午後7時30分になって、この裁定が正式発表されたが、違反者9人の過失は軽重それぞれなのに、全員に同じ“5秒加算”という判例も過去に例がない。このように混乱を極めた審判団の行動は今シーズンのワーストだった。おかげで日曜夜に閉店間際のレストランに駆け込むと、親父さんから「いったいどうしてアロンソはああなったんだ?」と詰問されるはめになった。分りにくいF1のイメージをJ・トッド会長には是非刷新していただきたいものだ。

話を小林に戻すと、1位ベッテル、2位ハミルトン、3位小林、4位J・バトンとなってからの中盤のペースは、マクラーレン・バトンに「抜く隙さえなかった」と言わしめたほどだ。ではなぜ予選18位のマシンがマクラーレンに対抗できるほど“速く”なったのか?
理由は四つ。1、ハミルトンが先行したことで前がクリアーになり、全く乱流を浴びずに理想的なエアロ状態が維持された。2、公道コースの路面グリップが強くなって予選以上にプライムタイヤでのバランスがよくなった。3、ザウバーは今回、燃料重量がレース中に軽くなっていく変化に影響されにくい細かいアップデートパーツを入れ、そのセットアップは予選よりもレース重視だった。4、序盤からタイヤを消耗させずに来た小林がリズムを完全につかみ、後ろのバトンをバックミラーで気にせず(プレッシャーを意識せず)少しずつ攻める「アブダビGP」パターンを思い出した。以上が挙げられる。

小林は53周目にピットイン、僕はこれを正しい判断だと思った。これより遅いと、オプションタイヤをウオームアップできないままチェッカーになる。彼は2周足らずでこのタイヤのグリップを引き出して56周目にアロンソを抜いた。際どいサイドバイサイドだったが相手のアロンソはフェアで、もし彼でなければ接触リタイアした可能性もあった。57周目のラストコーナーではS・ブエミのインを急襲、相手がここで来るとは思っていなかったのだろう、ブロックラインをとっていなかった隙を突くことができた。きれいな7位・6点ゴール、最終ラップの最終コーナーでオーバーテイクしながらフィニッシュするシーンはめったにないことだ。このように小林可夢偉11戦目のレースは、彼の力とチームのJ・キー技術監督、担当エンジニア、そしてメカニック(5秒5で焦らず正確にタイヤ交換)たちによる、表彰台にも等しい “金星”だったのである。

P.S. レース後、パドックでスパゲッティをばくばく食べる小林君と缶ビールで 一緒に“乾杯”。今日はビールだけどシャンパンは、もっと上位でフィニッシュした次の機会としよう。

≪お知らせ≫
すでにご案内のとおり今年も盛夏8月8日に、第11回クロストーク・イベントを、いつもの東京青山のホテルで開催します。F1はちょうど第12戦ハンガリーGPを終え“夏休み”期間に入りますが、ゲストの方々(複数を予定)とともにまた大いに語り合いましょう。中盤戦までの数々の出来事を“総括”しながら、日本GPを含めた後半7戦の展望やBSタイヤ・F1ラストシーズンのカウントダウンなど、今回もスペシャルでサプライジングな話題をたくさん用意しお待ちしています。
――エントリーはお早めに。シー・ユー・スーン、F1LOVERS

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