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2010年10月 アーカイブ

2010年10月06日

モンザ復活祭! フェラーリ・アロンソがイタリアGPで完全勝利

モンザ復活祭――。
フェラーリとアロンソが第14戦イタリアGP完全勝利、今季まだPP+ウイン+最速ラップはレッドブル勢もなく、これがはじめて。いかに完璧であったか、彼らはタイプが違う第15戦ナイトレース・ストリートサーキットでも全く同じ結果を出し切った。
戦力構図がイタリアGPから激変、僕はもうどのコースでも“レッドブル完全本命”と見てはいけないと直感した。フェラーリ・アロンソは最速マシンに追いつき、現実に追い越しに成功した。

復活した理由は三つある
1.エアロパーツのアップデート、特にアンダーフロア(表からは見えにくい部分)による著しいダウンフォース向上。これは超高速モンザではドラッグ<空気抵抗>とはならず、直線スピードを確保したうえで重要なブレーキングスタビリティーをグンと高めた。コースサイドにいて彼のフェラーリが示す“コーナリングアクション”は変わり、フロントのぶれが一切消え、ステアリング切り込みがナチュラルになっているのに驚かされた。もちろんこれでBSタイヤとのマッチングも良くなり、消耗度、摩耗肌、発熱性など一歩リードされていたレッドブルに引けを取らなくて済むようになった。

2.チーム体制面でアロンソを主軸にし、マッサをアシスト役にする役割分担が明確にされた。フリー走行から二人のプログラムを変え、マッサはそれを受け入れしっかりデータサンプルを集める走りに徹した。たびたびスピンをするほど攻めてはセッティングの“限界”を探り、エンジニアに「これ以上は無理」という事実を知らしめ、方向性を教えた。NO.2扱いと言えばそうなるがマクラーレンもレッドブルも今こういう体制がとれずにいる。その点においてフェラーリ・チームには彼らだけの強みがある。僕は今のマッサの役割と仕事が、今後のチャンピオンシップにかなりかかわってくると思っている。

3.アロンソがとても元気だ。終盤戦もここまで来ると、けして表には出せない<蓄積疲労>が何気ない態度に滲み出るもの。しかしモンザに見るアロンソはパドック出入りでティフォシにもみくちゃにされても表情はにこやか。歩幅の大きい歩き方が印象的だ。アスリートは普段の“歩きかた”に体調が表れる。モンザは超高速でなおかつシケインが多く、そこをカットして走る時に人によっては脳震盪に近い頭痛に苦しむ。これは一種の「モンザ病」だ。鎮痛剤はなく、ドライバーは自分自身で耐えるほかなく、フィジカルコンディションが万全でないとベストプレーを連続できない。モンザは19戦中で最もタフなコースのひとつ、シーズンが深まり疲労度が募る9月に毎年開催されるイタリアGPを<決戦>と言ってきた理由はそれだ。

マシンが大幅にインプルーブされ、チームが采配を一本化、エースたるアロンソが求めていた条件はほぼすべてそろった。本命は彼、今こうして書いているときにではなく、9月11日、最後のフリー走行を見てパラボリカからパドックに歩いて帰るときに、90%そう信じた。

P.S 
10月8日にドキュメンタリー映画『音速の彼方へ(原題SENNA)』が東宝東和から公開されます。ワールドプレミアで日本が最初、すべて実写シーンで構成されていてナレーションもなく、とてもシンプルな作品です(なんか彼自身が監督したような気さえします)。ブラジルで製作されたこの映画に実は僕も“出演”しています。製作側からフジテレビに94年サンマリノGP中継映像素材の提供依頼があり、僕のもとに今年春ごろに打診がありました。どういう形で使われるのかは不明でしたが快諾しました。A・プロストはじめJ・スチュワートら多くのドライバー、R・デニス、F・ウイリアムズ、J-M・バレストルFISA会長などが貴重な「証言」を語り、セナの「名勝負ドラマ」の裏側が描かれています。生誕50年、彼のレースをリアルタイムで見た方も見られなかった方も、10月日本の映画館にセナ降臨です。

「王者のレースマネージメント」を見せつけたアロンソが制したシンガポールGP

相手にとって不足なし――。
2冠王F・アロンソと新鋭S・ベッテルが見せたシンガポールGPマッチレースは、今年最も見応えある濃厚な内容だった。勝ったアロンソが最速ラップ1分47秒976、2位ベッテルは1分48秒141、この二人の自己ベストタイムは3位以下になんと1.1秒以上もの大差をつけていた。接戦が続く今シーズンでは異例なことで、二人だけが“異次元”スピードをぶつけ合い争った。

ブラインドコーナーだらけ、マリーナベイ・ストリートサーキットはモナコ公道コースのおよそ1.5倍もの長さで、実際走るとまるで罠を仕掛けたように23ものコーナーが次々に現れる。しかも1500基プロジェクターによる人工照明は、テレビ的には明るく映し出されてもコース脇で見るとやはり“暗さ”を感じる。
今年初めてここを走ったM・シューマッハも「チャレンジングなナイトドライビングを楽しむ」とお愛想の感想を述べていたが、最初は暗さに目がなじまず、他の者の2倍の周回を費やしながらマスターせねばならなかった。

さらに3回目の今年を難しくしたのは雨だ。毎日夕方までに必ずスコールが来て、降った雨がいっこうに乾かない(過去2年は天候に恵まれていたのだが)。それもそのはず陽が6時半には沈み、3000ルックスの人工照明にはお天道様みたいな“熱エネルギー”はない。高層ビルに囲まれているコースの周りには茂った木々がかなりあって、特にセクター1あたりは風通しが悪くてよけい乾きにくい。足元は泥んこ、テレビはそこまでは映さない。

コースサイド・ホテルに今年初めて泊まれ(料金が昨年までよりも大幅に値下がりしたので)、毎日部屋からコースを見られ、ホテルから昼晩歩いて通うことができた。あちこち濡れ場が点在していて、一つのコーナーのなかにもシミのように黒っぽく残っているのがよく分かる。ライン取りがとても難しいコンディションが金曜、土曜と続いていたのだが日曜はスコールもお休み、午後8時スタート決勝は99%ドライに変わった。
 ということはドライバーたちは金曜、土曜とはまた違うコーナリングラインにアジャストしながらレースを戦うことになる。分かりやすい「腕の勝負」、正真正銘のドライバーズレースになった。

アロンソはトップに立つとレース中に絶えずミラーでベッテルがどこいるか、その位置と間隔をチェックしながらブラインドコーナーに入る動作を繰り返した。彼のドライビングポジションは新人時代からほかの者よりもかなり低い姿勢をとり、ヘルメットの下半分が横にあるサイドプロテクターに隠れるのが特徴だ。目線は当然下がる。両脇にあるミラーを“上目ずかい”で見上げる格好になるわけで、その時微妙にヘルメットが動く。僕はその動きから彼が後続ベッテルをしっかりチェックし、必要なだけのリードをキープして自分のペースを調整しているのが解った。 

逃げようという過剰意識はオーバーペースのリスクを伴う。守ろうという防御本能はペースダウンにつながりかねない。こうしたマッチレースでの“鉄則”、それは相手をミラーに張り付けるかのように、また見えない糸で結ばれたように間隔を固定させていくことだ。二人は何度も最速ラップを出し合いながら、しかしアロンソは追われれば逃げ、ベッテルに最後まで接近を許さなかった。

60周目とラスト61周目に0.2秒差に縮まったのはH・コバライネンがマシントラブルでスローダウン、エンジン火災によってコース上にオイルなどが漏れ、イエローフラッグが出ていたから。ここで相手が近づいたからといって焦ってプッシュする必要は何もない。これが「王者のレースマネージメント」とばかりに違いを見せつけたアロンソ、おそらく背後のベッテルもその姿から何かを学んだことだろう。2位で悔しがる表情の裏に全力を出し切った充実感がちらついていた。

M・ウェバー202点、アロンソ191点(-11)、L・ハミルトン182点(-9)、ベッテル181点(-1)、J・バトン177点(-4)。数字上はまだウェバーが断然有利なのは確かで、失点を小さくしていけばいい立場にある。追う者はとにかく大量得点を狙うしかなく、もうここからは“ゼロ・レース”は即脱落を意味する。

35周目に起きたウェバーとハミルトンの接触は結果的にノーペナルティーで、ダメージが大きかったハミルトンだけストップ。ウェバーは右前輪タイヤがホイールからずれながら、振動に彼と彼のマシンが耐えたから“奇跡的”に3位15点を得られた。でもこういう強運は二度とはないだろう。「アロンソ191点、ウェバー187点、ハミルトン181点、バトン180点」、そう変わりかねない首位交代の一瞬の怖さを僕は感じた。

ここまで来た史上最大の決戦、チャンピオンシップを分かつものは確かな実力とほんのわずかの運、終わりへの始まりとなった第15戦シンガポールGPだった。

2010年10月18日

スタートで生き残った可夢偉、母国GP7位入賞の大健闘!

男の約束だぜ!
トーチューにも少し書いたが、スタート前に小林可夢偉君と握手をしながら「とにかく気を付けて。絶対完走。ゴールを目指せ」とハートに訴えた。握り返す彼の掌からは覚悟のほどが伝わってきた。

放送席に向かう時間、2時半ちょっと前、広いパドックを彼はひとりでピットに向かって歩いていた。日本GPに入ってから常に報道陣に包囲され、ファンに囲まれていたのに、この時は一人ですたすたと急ぐ姿を見つけて声をかけた。
「小林君、今日はいい天気になって良かったよなぁ…」
そんな軽い会話、雑談モードで気持ちをほぐしてやろうと思ったのだが、足を止めた彼は自分のほうからついさっき終わった予選について語り始めた。僕は取材のために声をかけたわけでもなし、もう終わったことはいいからと聞き流そうとした。
「あれをミスという人はいても僕はそうは思わない。君があのシケインでブレーキロックさせるほど深く突っ込んだのは、ちゃんと国際共同TV画面もとらえていた。よく突っ込んでたよ(笑)」
「いやあ、でも失敗しちゃいました(笑)。あそこで詰めるしかなかったですからね」。
周りに外人カメラマンが何人かいたが、日本人関係者は誰もいなかったので、自分の気持ちだけは伝えようと思った。

「とにかく気を付けて走ってくれよ!」
いまさら「頑張って」と言う必要はない。彼はもう十分過ぎるほど頑張っている。これ以上頑張ったらレースをあっけなく終える危険性がある。そう感じたからだ。
「今日は絶対生き残りで行きます。(やるべきことは)分かってますよ(笑)」
握手なんてめったにしたことはない。でもこの時は「頼むぜ」「はい、行ってきます」という気持ちだった。表現はふさわしくないかもしれないが、あえて言うと零戦パイロットの出撃みたいな凛々しさが、彼の目にはあった。
「生き残ります」――。
この言葉の響きは、彼の今シーズンの走りを見ていたファンには分かってもらえるだろう。

14位グリッドは中団ど真ん中、下り坂スタートの鈴鹿だけにいつも以上にダッシュの差がつき、いきなり混乱が予想される。1コーナーまでは300mぐらいの距離でコースは狭まり、右に曲がりこむ。満タンで車重の重いマシン感覚はさっきの予選空タンとは全然違う。スタートダッシュしてから1コーナーへのブレーキングポイントも予選とは変わってくる。小林の前にはF・マッサ、隣にV・ペトロフ、後ろにJ・アルゲルスワリ、危なっかしい連中ばかりだ。
案の定、予想していたことが起きた。ルノーは今回スタート設定を上手く決め込み、3位R・クビサも13位ペトロフも勢いよくダッシュ成功、逆に新人N・ヒュルケンベルグはスタートが鈍った。そしていきなり接触。集団は弾け緊急回避するマシンの群れのなかでアクシデントが連鎖的に発生、マッサとV・リウッチも絡んだ。その混乱の中を小林はインサイドぎりぎりで突破、順位は下げても、約束通り見事に“生き残った”。
あとでチーム関係者に聞いた話では、その瞬間、彼は悲痛な叫び声を無線に残していたという。「××××!!!」。

空中戦でパイロットが対空砲火の“弾幕”の中に果敢に突っ込み、そこを切り抜け敵機にドッグファイトを挑むかのように、小林は1周目1コーナーを回避してからポジションを上げていく。
木曜にはいつものようにコース下見をして、かつてはオーバーテイクポイントとして人気があったヘアピンが、今は小さなスタンドがあるだけで、ちょっぴりさみしさも感じたが、ここには緩いバンク角がついていて、手前の右100Rコーナリングラインを工夫して進入態勢をとればインを刺して抜くことは可能。ノーズを前に競り出せば出口ではクロスラインで抜き返されることはまずないことも確認した。

小林はアルゲルスワリ、A・スーティル、S・バリチェロらを次々と捉え、パターン変えながら抜き去って行く。実戦ラインをしっかり定め、ブレーキング勝負で“一撃離脱”、抜かれたほうはかなりのショックだったはずだ。特に抵抗すらできずあっさり撃墜されたベテラン・バリチェロは1対1のバトルに完敗し、そのあとは小林のチームメイト、N・ハイドフェルドにも抑え込まれた。ザウバーのエースとして7位6点を挙げ、ダブル入賞によって37ポイント、ランク7位ウイリアムズ58ポイントに“11点差”とした。残り3戦での順位逆転はかなり難しいが可能性はある。ワンランク上がるとチームへの分配金は数億円も違ってくる。日本人初めてのエースにチームの期待がかかる。

チャンピオンシップについて。完勝S・ベッテル、2位堅持M・ウェバー、3位確保F・アロンソという鈴鹿の結果によってタイトル争いの局面に変化が現れた。マクラーレン勢はL・ハミルトン(28点差)、J・バトン(31点差)に後退、今年のポイント制では優勝と2位では7点差あるので残り3戦全勝してもウェバーが2位を並べれば、彼らは逆転できない。つまり自力タイトル制覇の可能性は消え、ライバルが自滅しない限りチャンスはなくなったのだ。

220点ウェバーと206点アロンソ&ベッテルの三つ巴の構図だ。追う側のどちらかが2勝すればウェバーが2位に来ても並び、最終戦は同点決勝となる。14点リードとはいえウェバーは追いつめられ、表彰台の後の記者会見も早々に切り上げ、チームの“1-2フォトセッション”にも姿がなかった。彼の深層心理がうかがえる行動だ。チームは「あくまで二人をイーブンに戦わせる」というだけに今後ウェバーはベッテル、アロンソどちらかを抜いて先着しないと防衛できない。いよいよ焦りが募ってきた。

一方ドライバーズサーキットで速さを見せつけたベッテルには勢いがあって、心理的にとてもヘルシーだ。同じマシンパッケージが得られれば自分はチームメイトに負けないという自信がみなぎっている。アロンソもいよいよ心理戦に持ち込み、M・シューマッハを追って2冠王達成した経験を駆使してくるだろう。勝負の筋を読むことにかけてはウェバーやベッテルより彼のほうが上、フェラーリのマシンパフォーマンスそのものはわずかに予選時には劣ってもレースペースは鈴鹿でも大差に広がらず、総合戦闘力はイーブンに近い。アロンソ一人に完全集中するチームオーガニゼーションは二人を競わせるレッドブルよりも強く、土壇場になってこの違いが思わぬ好機となるかもしれない……。

鈴鹿最高の一日は終わった。
次は前代未聞のぶっつけ本番第17戦韓国GP。何が起きても不思議ではないと自分は覚悟している。

P.S.
鈴鹿では「クロストーク・イベント」参加者の方々や多くのファンに激励をいただきました。あらためてお礼を言います。ちょっと寝不足気味でしたが雨のち快晴に恵まれ、今年の名勝負となるに違いない日本GPを個人的にも楽しめました。
東名集中工事と3連休で行きも帰りも7時間以上かかり、国土交通省大臣に会う機会があれば“直訴”しようかと思った自分です。また土曜の大雨注意報下、予選スケジュールを長時間にわたって遅らせて、ファンをずぶ濡れのまま待たせたFIA側の判断には失望しました。静かに待ち続けた皆さんの態度に、外国メディアは日本のモータースポーツファンの情熱を感じたと驚いたようです。
 
あと3戦、10年最終章をお楽しみに――。

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