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「王者のレースマネージメント」を見せつけたアロンソが制したシンガポールGP

相手にとって不足なし——。
2冠王F・アロンソと新鋭S・ベッテルが見せたシンガポールGPマッチレースは、今年最も見応えある濃厚な内容だった。勝ったアロンソが最速ラップ1分47秒976、2位ベッテルは1分48秒141、この二人の自己ベストタイムは3位以下になんと1.1秒以上もの大差をつけていた。接戦が続く今シーズンでは異例なことで、二人だけが“異次元”スピードをぶつけ合い争った。

ブラインドコーナーだらけ、マリーナベイ・ストリートサーキットはモナコ公道コースのおよそ1.5倍もの長さで、実際走るとまるで罠を仕掛けたように23ものコーナーが次々に現れる。しかも1500基プロジェクターによる人工照明は、テレビ的には明るく映し出されてもコース脇で見るとやはり“暗さ”を感じる。
今年初めてここを走ったM・シューマッハも「チャレンジングなナイトドライビングを楽しむ」とお愛想の感想を述べていたが、最初は暗さに目がなじまず、他の者の2倍の周回を費やしながらマスターせねばならなかった。

さらに3回目の今年を難しくしたのは雨だ。毎日夕方までに必ずスコールが来て、降った雨がいっこうに乾かない(過去2年は天候に恵まれていたのだが)。それもそのはず陽が6時半には沈み、3000ルックスの人工照明にはお天道様みたいな“熱エネルギー”はない。高層ビルに囲まれているコースの周りには茂った木々がかなりあって、特にセクター1あたりは風通しが悪くてよけい乾きにくい。足元は泥んこ、テレビはそこまでは映さない。

コースサイド・ホテルに今年初めて泊まれ(料金が昨年までよりも大幅に値下がりしたので)、毎日部屋からコースを見られ、ホテルから昼晩歩いて通うことができた。あちこち濡れ場が点在していて、一つのコーナーのなかにもシミのように黒っぽく残っているのがよく分かる。ライン取りがとても難しいコンディションが金曜、土曜と続いていたのだが日曜はスコールもお休み、午後8時スタート決勝は99%ドライに変わった。
 ということはドライバーたちは金曜、土曜とはまた違うコーナリングラインにアジャストしながらレースを戦うことになる。分かりやすい「腕の勝負」、正真正銘のドライバーズレースになった。

アロンソはトップに立つとレース中に絶えずミラーでベッテルがどこいるか、その位置と間隔をチェックしながらブラインドコーナーに入る動作を繰り返した。彼のドライビングポジションは新人時代からほかの者よりもかなり低い姿勢をとり、ヘルメットの下半分が横にあるサイドプロテクターに隠れるのが特徴だ。目線は当然下がる。両脇にあるミラーを“上目ずかい”で見上げる格好になるわけで、その時微妙にヘルメットが動く。僕はその動きから彼が後続ベッテルをしっかりチェックし、必要なだけのリードをキープして自分のペースを調整しているのが解った。 

逃げようという過剰意識はオーバーペースのリスクを伴う。守ろうという防御本能はペースダウンにつながりかねない。こうしたマッチレースでの“鉄則”、それは相手をミラーに張り付けるかのように、また見えない糸で結ばれたように間隔を固定させていくことだ。二人は何度も最速ラップを出し合いながら、しかしアロンソは追われれば逃げ、ベッテルに最後まで接近を許さなかった。

60周目とラスト61周目に0.2秒差に縮まったのはH・コバライネンがマシントラブルでスローダウン、エンジン火災によってコース上にオイルなどが漏れ、イエローフラッグが出ていたから。ここで相手が近づいたからといって焦ってプッシュする必要は何もない。これが「王者のレースマネージメント」とばかりに違いを見せつけたアロンソ、おそらく背後のベッテルもその姿から何かを学んだことだろう。2位で悔しがる表情の裏に全力を出し切った充実感がちらついていた。

M・ウェバー202点、アロンソ191点(−11)、L・ハミルトン182点(−9)、ベッテル181点(−1)、J・バトン177点(−4)。数字上はまだウェバーが断然有利なのは確かで、失点を小さくしていけばいい立場にある。追う者はとにかく大量得点を狙うしかなく、もうここからは“ゼロ・レース”は即脱落を意味する。

35周目に起きたウェバーとハミルトンの接触は結果的にノーペナルティーで、ダメージが大きかったハミルトンだけストップ。ウェバーは右前輪タイヤがホイールからずれながら、振動に彼と彼のマシンが耐えたから“奇跡的”に3位15点を得られた。でもこういう強運は二度とはないだろう。「アロンソ191点、ウェバー187点、ハミルトン181点、バトン180点」、そう変わりかねない首位交代の一瞬の怖さを僕は感じた。

ここまで来た史上最大の決戦、チャンピオンシップを分かつものは確かな実力とほんのわずかの運、終わりへの始まりとなった第15戦シンガポールGPだった。

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