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スタートで生き残った可夢偉、母国GP7位入賞の大健闘!

男の約束だぜ!
トーチューにも少し書いたが、スタート前に小林可夢偉君と握手をしながら「とにかく気を付けて。絶対完走。ゴールを目指せ」とハートに訴えた。握り返す彼の掌からは覚悟のほどが伝わってきた。

放送席に向かう時間、2時半ちょっと前、広いパドックを彼はひとりでピットに向かって歩いていた。日本GPに入ってから常に報道陣に包囲され、ファンに囲まれていたのに、この時は一人ですたすたと急ぐ姿を見つけて声をかけた。
「小林君、今日はいい天気になって良かったよなぁ…」
そんな軽い会話、雑談モードで気持ちをほぐしてやろうと思ったのだが、足を止めた彼は自分のほうからついさっき終わった予選について語り始めた。僕は取材のために声をかけたわけでもなし、もう終わったことはいいからと聞き流そうとした。
「あれをミスという人はいても僕はそうは思わない。君があのシケインでブレーキロックさせるほど深く突っ込んだのは、ちゃんと国際共同TV画面もとらえていた。よく突っ込んでたよ(笑)」
「いやあ、でも失敗しちゃいました(笑)。あそこで詰めるしかなかったですからね」。
周りに外人カメラマンが何人かいたが、日本人関係者は誰もいなかったので、自分の気持ちだけは伝えようと思った。

「とにかく気を付けて走ってくれよ!」
いまさら「頑張って」と言う必要はない。彼はもう十分過ぎるほど頑張っている。これ以上頑張ったらレースをあっけなく終える危険性がある。そう感じたからだ。
「今日は絶対生き残りで行きます。(やるべきことは)分かってますよ(笑)」
握手なんてめったにしたことはない。でもこの時は「頼むぜ」「はい、行ってきます」という気持ちだった。表現はふさわしくないかもしれないが、あえて言うと零戦パイロットの出撃みたいな凛々しさが、彼の目にはあった。
「生き残ります」——。
この言葉の響きは、彼の今シーズンの走りを見ていたファンには分かってもらえるだろう。

14位グリッドは中団ど真ん中、下り坂スタートの鈴鹿だけにいつも以上にダッシュの差がつき、いきなり混乱が予想される。1コーナーまでは300mぐらいの距離でコースは狭まり、右に曲がりこむ。満タンで車重の重いマシン感覚はさっきの予選空タンとは全然違う。スタートダッシュしてから1コーナーへのブレーキングポイントも予選とは変わってくる。小林の前にはF・マッサ、隣にV・ペトロフ、後ろにJ・アルゲルスワリ、危なっかしい連中ばかりだ。
案の定、予想していたことが起きた。ルノーは今回スタート設定を上手く決め込み、3位R・クビサも13位ペトロフも勢いよくダッシュ成功、逆に新人N・ヒュルケンベルグはスタートが鈍った。そしていきなり接触。集団は弾け緊急回避するマシンの群れのなかでアクシデントが連鎖的に発生、マッサとV・リウッチも絡んだ。その混乱の中を小林はインサイドぎりぎりで突破、順位は下げても、約束通り見事に“生き残った”。
あとでチーム関係者に聞いた話では、その瞬間、彼は悲痛な叫び声を無線に残していたという。「××××!!!」。

空中戦でパイロットが対空砲火の“弾幕”の中に果敢に突っ込み、そこを切り抜け敵機にドッグファイトを挑むかのように、小林は1周目1コーナーを回避してからポジションを上げていく。
木曜にはいつものようにコース下見をして、かつてはオーバーテイクポイントとして人気があったヘアピンが、今は小さなスタンドがあるだけで、ちょっぴりさみしさも感じたが、ここには緩いバンク角がついていて、手前の右100Rコーナリングラインを工夫して進入態勢をとればインを刺して抜くことは可能。ノーズを前に競り出せば出口ではクロスラインで抜き返されることはまずないことも確認した。

小林はアルゲルスワリ、A・スーティル、S・バリチェロらを次々と捉え、パターン変えながら抜き去って行く。実戦ラインをしっかり定め、ブレーキング勝負で“一撃離脱”、抜かれたほうはかなりのショックだったはずだ。特に抵抗すらできずあっさり撃墜されたベテラン・バリチェロは1対1のバトルに完敗し、そのあとは小林のチームメイト、N・ハイドフェルドにも抑え込まれた。ザウバーのエースとして7位6点を挙げ、ダブル入賞によって37ポイント、ランク7位ウイリアムズ58ポイントに“11点差”とした。残り3戦での順位逆転はかなり難しいが可能性はある。ワンランク上がるとチームへの分配金は数億円も違ってくる。日本人初めてのエースにチームの期待がかかる。

チャンピオンシップについて。完勝S・ベッテル、2位堅持M・ウェバー、3位確保F・アロンソという鈴鹿の結果によってタイトル争いの局面に変化が現れた。マクラーレン勢はL・ハミルトン(28点差)、J・バトン(31点差)に後退、今年のポイント制では優勝と2位では7点差あるので残り3戦全勝してもウェバーが2位を並べれば、彼らは逆転できない。つまり自力タイトル制覇の可能性は消え、ライバルが自滅しない限りチャンスはなくなったのだ。

220点ウェバーと206点アロンソ&ベッテルの三つ巴の構図だ。追う側のどちらかが2勝すればウェバーが2位に来ても並び、最終戦は同点決勝となる。14点リードとはいえウェバーは追いつめられ、表彰台の後の記者会見も早々に切り上げ、チームの“1−2フォトセッション”にも姿がなかった。彼の深層心理がうかがえる行動だ。チームは「あくまで二人をイーブンに戦わせる」というだけに今後ウェバーはベッテル、アロンソどちらかを抜いて先着しないと防衛できない。いよいよ焦りが募ってきた。

一方ドライバーズサーキットで速さを見せつけたベッテルには勢いがあって、心理的にとてもヘルシーだ。同じマシンパッケージが得られれば自分はチームメイトに負けないという自信がみなぎっている。アロンソもいよいよ心理戦に持ち込み、M・シューマッハを追って2冠王達成した経験を駆使してくるだろう。勝負の筋を読むことにかけてはウェバーやベッテルより彼のほうが上、フェラーリのマシンパフォーマンスそのものはわずかに予選時には劣ってもレースペースは鈴鹿でも大差に広がらず、総合戦闘力はイーブンに近い。アロンソ一人に完全集中するチームオーガニゼーションは二人を競わせるレッドブルよりも強く、土壇場になってこの違いが思わぬ好機となるかもしれない……。

鈴鹿最高の一日は終わった。
次は前代未聞のぶっつけ本番第17戦韓国GP。何が起きても不思議ではないと自分は覚悟している。

P.S.
鈴鹿では「クロストーク・イベント」参加者の方々や多くのファンに激励をいただきました。あらためてお礼を言います。ちょっと寝不足気味でしたが雨のち快晴に恵まれ、今年の名勝負となるに違いない日本GPを個人的にも楽しめました。
東名集中工事と3連休で行きも帰りも7時間以上かかり、国土交通省大臣に会う機会があれば“直訴”しようかと思った自分です。また土曜の大雨注意報下、予選スケジュールを長時間にわたって遅らせて、ファンをずぶ濡れのまま待たせたFIA側の判断には失望しました。静かに待ち続けた皆さんの態度に、外国メディアは日本のモータースポーツファンの情熱を感じたと驚いたようです。
 
あと3戦、10年最終章をお楽しみに——。

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